眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

『犬はどこだ』をよむ

米澤穂信・著(東京創元社・2005年)

東京で挫折した25歳の青年が生まれ故郷の地方都市で、犬探し専門の探偵を始めることになった。ところが、持ち込まれた依頼は犬ではなく、人探しだった…。

という始まり方で、青春の残像を背負いつつ、事件と人とかかわるうちに、大切な何かに気付いて行くのだった…みたいなものを想像していたのだが、まるで違っていた。ジャンル的には、ハードボイルド寄り、しかも展開するうちに甘っちょろい青春ものではなく、かなり本格的なそれであると思い知らされる。挫折した青年の、他人や周囲の出来事への無関心は、年齢と経験を重ねた探偵の、屈折や諦念と同じものだ。25歳の若者のハードボイルドときくと不安になるが、成立するのだ。

物語の方は、人探しと同時に、古文書の内容を調べてほしいという依頼も舞い込み、これが同時進行。こちらは主人公の後輩が担当し、双方の一人称で交互に語られるが、物事の見え方の違いという二人のズレが面白く、それがサスペンスにも繋がっていく。登場人物や状況、考え方など、それぞれの関係の上のズレ、というのは、作品のテーマのひとつにもなっていて、ズレが生んだ最悪の結果とその顛末、にまとめられていく。後半のサスペンスの疾走感についてまわる、不穏な空気の冷ややかさ、ホラーめいた終幕も味わいがある。シリーズ化を想定したような人物配置だが、続きはあるのだろうか。もちろん、ない方がいい。