眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

『はじまりは5つ星ホテルから』をみる

監督はマリア・トーレ・ソニャッツィ。2013年のイタリア映画。

高級ホテルをチェックする覆面調査員として、世界を飛び回っているイレーネ(マルゲリータ・ブイ)。生活に特に不満はなかったが、元の恋人が父親になる、妹からは将来が不安だと心配される、そして生きる喜びは高級ホテルなんぞで得られるものではない、という人類学者との出会い…によって、イレーネの中で何かが変わっていく。

ホテルのサービスをチェックしていく場面はこの作品の、いわば表側の見せ場なので、楽しく、面白い。なるほど、そんなことを、そんなところまでチェックするのか、という面白さ。これだけで別の映画が出来てしまうくらい、興味深い。

おそらく一生に一度しか高級ホテルに泊まれないような新婚カップルへのサービスが、あからさまに劣っているホテル側の仕打ちに、イレーネが憤る場面。イレーネは決して上流階級の人間ではない。ごく、庶民的な階級で、覆面調査員という仕事が、お金持ちのように振舞うことを許しているだけだ。それがなければ新婚カップルと立場はそう変わらない。彼女が優秀な調査員なのは、そういう差別的な行いに目が届くから、ということもあるのだろう。出自の違いによって、客観的にホテルをみることができる。結果、徹底的に冷徹になれるのだ。

82分の映画。短い映画は大好き。要点をまとめて、簡潔に作られるから。なので、イレーネの心のうちの微妙な変化は、浅いとも軽いとも言えるが、ここはやはり簡潔に描かれている、と言いたい。本当の幸せとは何か?的な、人生に本当に必要なものとは?的な、その答えが、人とのつながりとか、家族がいることとか、に直結させる暴力的な映画が依然多い中、最後に彼女が出す結論は、スパッと潔く気持ちが良い。清々しいものを感じる。小気味よいといってもいい。「自分の人生では得られない、また必要がないもののことで、うじうじ悩むことはない」という宣言。なんという前向きさ。素晴らしい。