眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

『パラノーマン ブライス・ホローの謎』をみる

監督はクリス・バトラーとサム・フェル(バトラーは脚本も)。2012年のアメリカ映画。

スターチャンネルで。

子供向けのストップモーションアニメ、と思っていると、痛い目に合う。子供たちがみても、もちろん愉しい映画ではあるのだが、これはむしろ、大人がみて納得したり、感動したりする映画。恐怖のあまり、相手の言うことに全く聞く耳も持たず斬罪し、その存在を消しさることでよしとする、300年前の魔女裁判の判事と目撃者、そして現在の街の住人達。しかしながら、これは現実の社会の、ごくありふれた光景であり、我々が少なからず持ちかねない感情である。主人公ノーマンの、死者がみえるという特殊能力が、街を救うのではないところに、映画としての深み、メッセージ性の強さがある。死者が見えるとか話が出来る、ということではなく、相手の言葉を聞く、話をする、それが魔女と呼ばれた少女の心を解き放つことになる。ごくごく、些細なことである。しかしそれが、人との関係を作るにあたって、如何に大切であるか。世界と結びつくためには、それがどれほど重要なことか。あまりに単純で、誰もが軽んじてしまいそうなことの大切さを、子ども映画の形で、しっかりと訴える。いや、子ども映画という形だからこそ、表現出来るのだろう。

アニメーションの技術としても素晴らしい。どこらまでがセットとして作られているのはわからないが、モデルアニメ映画の箱庭感が可愛らしく、隅々まで行き届いた演出が素晴らしかった。

吹き替えでみたんだけど、多田野曜平さんは、本当に山田康雄さんの声だなあ。あんまり言われると嫌かもしれないけれど、本当に似ている。「吹き替えの帝王」のインタビューで、山田さん亡きあとのイーストウッド映画をまるまる一本、吹き替えたい、と語っておられるが、それは是非とも実現してほしい。