眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「リバースエッジ 大川端探偵社」をみて

とうとう最後までみてしまった。凄く好きなドラマだったので、勿体なくてちびちび見ていたのだが、どうしたって終わりは来るものだ。
終盤で印象に残るのは、「FILE.11 トップランナー」。

毎朝の通勤で使う水上バスから、毎日同じ時間に同じところを走っている男がみえる。いくらなんでも不可能、と思ったことから依頼者(山田真歩=「花子とアン」の宇田川先生)は興味を惹かれる。後日、それは説明がついた。男(滝藤賢一)は、ぐるぐると同じところを廻っているのだ。なるほど、それなら判る。そしてある日曜日、彼がマラソン大会の記録を塗り替える2時間以内で、完走に相当する結果を出していることに、依頼者は気付いてしまった。彼が一体何者で、何のために走っているのか調べてほしい…という依頼。
実に奇妙な依頼であり、また寡黙に走る男の、その行動にも俄然興味がわく。近所のスーパーに勤めている平凡そうな男。しかし彼は、何かに取り憑かれたように走る。走る理由はなんなのか…。滝藤賢一のキレッキレの芝居が恐ろしい。それほど、何かに追い立てられているのだ。「ただ、走っている」というのだが、彼自身にも、本当の理由は判っていなかったのかもしれない…。そして、その走る姿に、何かを重ねていた依頼者。二人の結末は、つかみとろうとしても得られないことに、必死ですがる姿が哀れでもあり、潔くもある。望んだ結末ではないようで、それを待っていたようにも思える。前へ前へ。もっと先へ。そこにあるものは何なのだろうな…。
「FILE.8 女番長」、「FILE.10 もらい乳、10.5 決闘代打ち」は、よかったね、といいたくなる、ほのぼのとした話。切なかったり、悲しかったりする話と交互に、こういう人の善意がありがたい話があって、そのバランスがよかった。「決闘代打ち」はたぶん、全話のなかで一番くだらない、ヤクザの喧嘩のレフェリーを頼まれるという話なんだけど、これも最後の仲直りしたヤクザたちの様子が可笑しいので、やはりほのぼのとしてしまう。
問題作扱いとなるのは「FILE.9 命もらいます」か。

あらかわ遊園の場内アナウンスの声に惚れた、みるからにオタクの男が、声の主を探してくれと依頼。探し当てるものの、その声優(松本まりか!)は、オタクはキモイし会いたくない、といって接触を拒否。しょうがないので、おばあさんを身代わりにして、実はこの人だったんです、あのアナウンスは60年前の録音です、といってごまかそうとするのだが、男は、この人じゃない、と見抜き、もういいと言ってぶち切れる。気持ち悪いとかオタクとか、という形になっているが、これは冴えない人たちがおそらく一様に抱える心の一部。これを踏まえて前向きになれる人と、この話しのようにダメな方に行く人に分かれるのだろう。冒頭、オダギリジョー小泉麻耶は、遊園地には全然別件の依頼で来ていて、アナウンスは、環境音でしかない。しかしながら、これが耳に残ったという人は、このオタク男と同じ類の人間である。そんな人たちには、これは胸の痛い話しではないか、と思った。無論、わたしは同類。それが、このドラマのいわば当事者かどうかを分けるリトマス試験紙というわけだ。結局、オタク男は、姿はみえずとも、会えずとも、遊園地に行ってその声を聞くことで満たされることを選ぶ。半ばバーチャルな世界への逃避である。ドラマには、突き離されてしまった格好だが、完全否定は出来ない自分もここにいる。ダメな人間には逃げるところが必要なのだ…。
「FILE.12 依頼者は所長」は最終回。所長を追い詰めるために暗躍(大げさ)する、若松武史が不気味でよかった。このドラマでは主役3人の過去はほとんど語られないが、所長は、現政府が転覆するようなネタをしっているらしく、かなりの要人の私設秘書だったということが、最終回でちらりと判る。もろもろについては墓場まで持って行くよ、と所長は言うが、所長の後釜だという男は、それは信じているが、そう思い続けてもらうためにちょっと痛い目に合わさせてもらうよ、と。やる方もやられる方も、しょうがねえんだよな、という諦めみたいなものがあって、あまんじてそれを受け入れるのが残酷でもあり、この世の現実のようでもあり、やるせなくもあり…。後をついてきたオダギリジョーも自ら、ぶん殴られにいく、というのも、年取ると世の中の仕組みって色々あって、それを受け入れてまわっている部分もあるんだよな…という、オヤジな気分が濃厚に立ち込めて、それを共有してしまう人は、このドラマを好きだろうし、つまり、かなりおっさんだと思います。
ドラマ24というのは、深夜のドラマ枠ですが、今の日本にはあまり残されていない、男のためのドラマ枠であるように思えてならない。男でなければ判らない、ということではないが、作り手には、男たちの共感と、その気分の共有ということが、かなり意識されているのではないか、と思われる。ちょっと疲れた男たちが、ゆるく夢想する世界が、ここではゆらゆらと現実化する。そんな枠にはまった、いいドラマだった。全話、愉しんでみました。素晴らしかった。
続きを希望したいところだが、それは叶うだろうか。小泉麻耶は、不倫騒動とか枕営業とか、なんやかんやと騒がしいが、大丈夫だろうか。