眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

日本一の若大将(1962)

監督は福田純

シリーズ第3作。第2作「銀座の若大将」は、1作目と内容がほとんど同じせいで作りが雑に思え、どうにも弾けきらない感じがして乗れず。が、今回は面白かった。監督が変わったことも多少関係があるのかも。

お話は例によって例のごとし…ながらも、青大将は3作目にして完全に後ろ暗い感じは消え失せ、単に小ずるい男になった。田中邦衛の個性も加わり、頼りなく情けなくも、澄ちゃんにいいようにやられてしまうところで、こちとらボンクラからは共感めいたものを覚えさせる憎めなさが出て来ている。澄ちゃんは本当に酷い女性で、クライマックスで「若大将、好きよー。好き好き、大好きー!」と青大将の前で言ってしまうのだが、そのあとで「ごめんなさい。つい本当の気持ちが出ちゃったのよ」とデリカシーの欠片もない独善的発言をするので戦慄。ラストのパーティーでも青大将と踊りながら、「5千万人も女性がいるんですもの、いい人がすぐ見つかるわよ」と言い放つ。ちっともフォローになってないんですけどね。青大将の傷ついた心に塩を塗り込むような物言い。心底恐ろしい。若大将が、藤山陽子になびいたと勘違いしたときには、「見損なったわ。何よたった5万円ぽっちで」と吐き捨てるが、その言葉の裏には、なんで私を選ばないのよ!、という女王様気質が窺えて、どこまでうぬぼれるのか!と思わされたのは、わたしだけかもしれないが、しかしそこが澄ちゃんの魅力なのであった。

色々と細かいところで笑わせてくれるのだが、今回は妹の照子がお見合いすることになって、その相手が藤木悠というところでクスクスと来る。写真を開いて、藤木悠の顔が見えたところでもう笑ってしまうのだが、

照子「ちょっと面白い顔してるじゃない。ねえ?」
りき「頭の中もおめでたそうだねえ」
って酷過ぎない。いくらなんでも。続けて、
久太郎「おととし大学を出たときは一番だったらしいですよ」
りき「ビリからってんじゃないだろうね」

と、これまたこてんぱんな言われようで笑ってしまう。しかしおばあちゃんが心配したことは的中する。お見合いの席では、若い者ふたりで、と庭へ出て会話をするのだが、

藤木悠「照子さんは、何がお好きですか」
照子「そうですわね。音楽なんか大好きですわ」
藤木「音楽?ぼくもジャズが大好きなんですよ」
照子「どちらかというと、あたくしクラシックの方ですの」
藤木「お、結構ですね、クラシック。ぼくもどっちかっていうとクラシックが好きなんです。ぼくたちどうしてこう気があうんでしょうねえ。ははは、本当に気が合うなあ」

といった具合に、適当な会話っぷり。藤木悠のとぼけた芝居だと、これが本当に適当にころころと話しを合わせる調子のよさで可笑しいの。文字だけではピンとこないけれど。このあと西条康彦がふたりに絡んでくると、「誰だ君は」と言いながら、すばやく照子の後ろに隠れるという、素早い身のこなしも発揮して、とんだかっこつけが露呈するのも可笑しい。藤木悠さんは、特に笑わせようとするわけでもなく、立っているだけでぼんやりとした可笑しみを生みだす人だったんだなあ、と改めて思う。

他、俳優さんでは、お寺のお坊さんを演じる左卜全が。講堂ですきやきしているのをみて激昂するが、なんだかんだと、りきさんの言葉に乗せられて、肉を食べるところ。卜全が、ワンカットで意外とバクバク食べるんですよ。この「結構食うな、おい」という感じがたまらない。

妙な面白さを感じさせたのが、マラソン部の面々のリアクション。青大将がマネージャーをやめる、と言いだしたときの、えっ…というリアクション。若大将が、ちょっと無責任すぎるぞ、と後を追いかけると、部の面々も部屋から出て来て様子をながめているあたりの感じ。映画全体はコメディなのに、妙に生々しい感じがする。合宿に行って、ようし飯だ!となったところで、もう食べるものがない(10日間分を1日で食べた、というのも凄い)、と言われた時の、これまた、えっ…という反応も、本当に引いている感じの薄いリアクションで、なんだろうこれは。福田純は何か思う所があったのかな。こんなに書くほどのことでもないのかもしれないが。

ラストは、若大将のマラソン優勝と、入社を祝ってのパーティーで、若大将が歌うんですけど、ここでみなが手拍子を打つんです。これが、当たり前といったらそうなんだけども、オフビートになっているのがにくい。表打ちじゃないですよ、裏ですよ裏。ラストのラストは、澄ちゃんと踊るところなんですけども、星由里子は加山雄三の目をみてるんだけど、雄三は微妙に視線外してるんですよ。しかも2度ほど、瞼をぴくっと震わせている。これもなんだかね、お、意外と意識してる?って感じで。星由里子の方が余裕がある感じなんですよね。

どうでもいいことばかり書いてしまったが、もう若大将映画については、日本中のブログで書かれまくっているので、同じようなことを書いてもな、と思って。記憶に残らなそうな部分について書き残しておこう、と。

東宝特撮映画では、新聞記者の役でおなじみの渋谷英男さんが、若大将の入社の面接の場面で、後ろにぼんやりと映っている。あとは後ろ姿だけ。台詞なし。クレジットにもなし。大部屋俳優さんだからしょうがないけれども。岡部正さんも芦ノ湖畔の水上スキー大会で、テントの中に座っていた。こちらも台詞なし、クレジットなし。大部屋俳優というシステムがあって良かったな、と思いますな。顔なじみな人が出ていると、それだけでも愉しくなります。