眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

別冊映画秘宝 初代ゴジラ研究読本 感想

初代ゴジラ関連本中、これはかなり濃密な一冊。まさかと思うような人たちへのインタビュー取材により、第一作目のゴジラがまた新たな一面をみせてくるような、それほどの密度の高さ。これまでも、マニア以外は誰も喜ばない話しばかり…と、最近の特撮映画本を読みながら思っていたがこれはもう、その最果てにまで来てしまったのでは…と思わせられる。しかしながら、そこまで来て初めて知る話が出てくるのだから、とことんまでやってみないと判らないものである。
驚いたのは、元海上保安庁巡視船「こうず」乗組員の方や、平和への祈りを歌った、桐朋学園卒業生のお二人など、一般人にまで話しを訊いていること。これにはたまげた。特撮に関しても、各パートの責任者は、今や物故された方が多くなり、この本では当時、助手だった人たち(と言っても、後に一本立する人ばかりだから、単なる下っ端の話しだけには終わらない)に話しを訊いている。さらに、ゴジラの鳴き声を作った(松脂を塗ったコントラバスの弦を革手袋をしてひっぱった、なんてことはないらしい)、効果の三縄一郎、大部屋俳優の加藤茂雄、記平佳枝といった人々の証言から、第一作が如何にして作られたか、ということを再検証していくことになる。知られざる話しは尽きないもので、驚かされること、多々。

当時の撮影所の熱気、空気も伝わって来る。そして、ここで語る人たちがまだ若かった、ということ。気恥ずかしい言い方になるけれど、それはまさしく、青春だった、ということ。単に過去を懐かしんでいるのではない。若さゆえのがむしゃらさ、熱意について語っているのだ、と。その部分が熱ければ熱いほど、かかわった多くの人たちが、その後どのような道を歩んで行ったかを知るとき、そこには一種の虚脱したような感覚が横たわる。その道の先が、成功に繋がっていようとも、いまひとつ冴えなかろうとも、いずれにせよ若さゆえの熱気との差が生じるのだ。その差を思うとき、そこに、人生というものを感じずにはいられない…。

この本は、そこにフォーカスをあてているわけではない。読みながら、勝手にそういうところに感じ入ってしまうのである。ただやはり、全盛期が華やかであればあるほど、祭りの後の、一抹の寂しさ侘びしさは避けられない。遠くなった昭和を思いながら、そんなことを考える。

あと、本多猪四郎監督に関しては、悪口を言う人が全然いないんですね。本当に、やさしく、紳士的な人だった、と皆が語っている。切通理作・著の「無冠の巨匠 本多猪四郎」(これもドえらい力作)で語られた、本多監督の映画への向き合い方を思い出しつつ、改めて監督の、誠実な人となりに感動してしまう。

他、手塚勝巳が、軽く非難されている感じがおかしくて笑ってしまったが、ウィキペディアでは「俳優を引退後の消息に関する情報は無い」と締められていて、そのそっけなさに寂しさを感じてしまう。「ゴジラ」の新聞社のデスク、貫録があってかっこいいけどな。

ゴジラファンは、必携。読み応え満点の一冊。