眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「大いなる勇者」 感想

戦争に嫌気がさしたジェレマイア・ジョンソン(ロバート・レッドフォード)は、俗世間を捨て、山に入る。老狩人に、山で生きるための術を教えられ、一人前の山の男になっていくが…。

途中の休憩時間(OPには序曲もある)を挟んで、映画は、がらりと変わる。人との関わりを断とうとしても、そう出来ないジェレマイアの優しさ。それはある意味では弱さであり、そのために、手に入れた温かな生活を失ってしまう。半端な心の揺らぎを捨て、毅然とあれば、悲劇は起こらなかった。己を責める心は、仇となったクロウ族(先住民)へと向かう。だが復讐は復讐を呼ぶ。一人一殺の如き刺客の襲撃。それは執拗に続く。しかし生き延びるごとに、クロウ族も彼の存在を畏怖するようになっていく。闘いを強いられ、それを受け入れるのが贖罪であるかのように闘い続ける男…。

終盤、老狩人と再会したときに、ジェレマイアは、今は何月だろう?と訊く。老人は孤独であるが、文明世界に属する人間だ。今が何月であるかを忘れることはない。だが、ジェレマイアは、それが判らなくなっている。文明世界の価値観を外れ、自然世界へと足を踏み入れつつある。文明世界で背負った、全てを捨てて。

闘いの果てに、クロウ族の長と手をかざし合うとき、彼は向こう側の人間となる。彼の掟は、文明世界から大自然へと移る。クロウ族が、「死ななくなったのではないか?」と怯えるほどの存在となった男は、その瞬間、伝説となる。

大いなるものと対峙し、そこに己の楔を打ち込み、屹立する。雄々しき男の夢。ジェレマイアがそう思ったかは判らないが、作り手にはその思いがある。命を賭ける意味がある、と思っている節がある。何故なら、脚本を書いているのは、ジョン・ミリアス(とエドワード・アンハルト)。なるほど。

監督 シドニー・ポラック/JEREMIAH JOHNSON/1972/アメリ
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