眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

朗読CD「たそがれ清兵衛」〜山田洋次が選ぶ「藤沢周平傑作選」 感想

〈あらすじ〉藩内で急速に独善的な采配を振るうようになった堀将監。藩の行く末に不安を覚えた旧執政側の家老、杉山頼母らは、上意討ちを決意。その先兵となるべく白羽の矢を立てられたのが、井口清兵衛。腕は一流だが、病の妻を抱えて介護と日々の暮らしに追われる彼は、その話には素直に乗れず、断ろうとするのだが…。

BS・CS放送をみていると、新作ドラマシリーズが始まり、それに伴い多くのドラマ作品も再放送されて、突然のように藤沢周平ブームが巻き起こっているように思えるが、世間的には特にどうということもないのだろう。

朗読は、落語家の柳家花緑。まだ若い落語家さんと思っていると、いつの間にやら、いい年になっていて驚いた。というか、当然、自分もいい年になっているのだった。いや本当にびっくりするね。

始まると、朗読の抑揚にちょっとくせがあり――それが落語的な抑揚なのかどうかは、落語をたしなむことがほとんどないので判らないのだが――そこに戸惑った。また、失礼ながら、耳に心地よいというタイプの声でもないので、少々、うむうむと、集中して聞き始めたのだが、しばらくすればそのような無理は、後方へ飛び去った。地の文の淡々としたさまは、状況を冷静に見渡す客観性がある。それに対して、台詞は感情過多なほどの演技ぶりで、かなりドラマティック、ぐいぐいと引っ張る。その明快な差は、物語を耳で愉しむという醍醐味のひとつであるなあ、と思わされた。殊に、堀将監を弾劾する場面などは、堀の悪辣さ漂うだみ声の迫力が素晴らしく、さてどうなるのかとハラハラさせられる。小説の素晴らしさは勿論だが、下手な人が読んでもこのようには盛り上がるまい。

アクション的に重要な場面はあっさりと処理されている。堀を討つところも、北爪半四郎との対決も、簡単に終わってしまう。小説ではそれが効果的であり、味わいなのだが、朗読ではそこが物足りなくなってしまう。が、それは目でみるものと、耳で聞くものの違いであり、そこがまた面白いと思う。

映画の「たそがれ清兵衛」とは、話が違うなと思いながら聞いていたのだが、映画は他の作品と組み合わせて作られた、いわば同題の別作品だったことを思い出した。ベースは同じだが、妻を亡くし、娘二人がいる侍で、討つ相手も違っていた。以前はBSでよくやっていた印象があるが、最近あまりやらないね。ときどき、思い出したように放送してほしいもの。