眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「劇場霊からの招待状」 第9話〜「憧憬」 感想

〈あらすじ〉芝居の主役に抜擢された悠木奈央(高橋朱里)。社長の林亜紀子(渡辺真起子)と共に上演する劇場にやってくる。実際のステージをみせてやりたいと、亜紀子が望んだのだ。だが、劇場には、夢破れた者たちの妬みや嫉みが怨霊の如く巣食っていた…。

以下、ネタばれ前提での感想を書いています。



かつて将来を期待されたが事故によってその道を断たれた亜紀子。奈央を見出して彼女をここまでに仕上げ、その未来に、果たせなかった自分の夢も託している。その亜紀子が、悪いものに取憑かれてからが恐ろしい。無表情になるだけで不気味さが加速するのが凄いが、奈央にいきなりの平手打ちを喰らわせ、杖で殴りかかってくるところも怖い。冒頭で奈央が演じて見せる芝居の台詞を、同じようにステージの真ん中で言うところも、やはりドスの利いた怖さがある。渡辺真起子のさすがの芝居ぶり。

高橋朱里の見せ場は、亜紀子に取り憑いた何かに対して、絶対に主役は譲らないと喧嘩を売るところだが、若い女の子が何かを訴えるときに、少し前かがみになるのは、誰が決めた約束事なのだろうか。このパターンの芝居は良くみる気がするのだが…。

最後は、無事に初日を迎えた楽屋で、すっと部屋に入ってきた亜紀子(の霊みたいなもの)が奈央の体を乗っ取ってしまう。いみじくも、二人によって繰り返された「何故運命はこんなにも残酷なの。もし許されるのなら、わたしの命をあなたに捧げましょう。そして、わたしは永遠に、あなたの中で生き続けるのです」という台詞のままに。裏方としてではなく、主役として舞台に立ちたいという亜紀子の暗い執念。それを頭に入れて、彼女を中心にして見返すと、夢を断たれた女性の嫉妬が見え隠れしてくる(ように見えてくる)辺りが面白い。先の台詞は、亜紀子が口にするときには、その前がある。「違う。これはわたしが望んだ結末ではない。これが悪魔に魂を売った報いだと言うの」…。夢と希望を奈央に託しながらも、女優でありたいという強い思いが勝ってしまうところに、人の業をみる。

幽霊的なものは、後ろの方に、白い服を着てぼんやりと立っているいつものパターン。そろそろ違う見せ方をしてほしい。しかも奈央たちが接する怪異は、誰もいないはずなのに聞こえてくる人の声。実体化した幽霊を、ドラマ内では、奈央は見ることはない。亜紀子と警備員は見ているのかもしれないが、そこは描かれていない。幽霊が直接、奈央に接触するわけではないので、出てくる意味があまりなく、そこが無くても成立してしまう。気付かないけど傍にいる恐怖、ということなのだろうが…。結局今回も、ベテラン俳優の凄味がドラマの吸引力になっている。見どころはそこ。

第1話「埋葬」の感想はこちら。
第6話「廃墟」の感想はこちら。