眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

安楽椅子探偵 ON STAGE 出題編 感想

いきなり余談になるのだが。昨年末に放送されたNHK「謎解きLIVE/CATSと聖夜の殺人者」が、ドラマの放送時間1時間内に回答しなければならないというタイトな仕様へ変更となったことに不満を抱いた視聴者は多かったと思うのだ。以前は、翌日に解答編が用意されていて、まる一日あれやこれやと考えるのが愉しかったのに、NHKはその愉しみをあっさりと奪ってしまった。放送頻度を上げるための新たなパイロット版という意味合いがあったようなのだが、事を性急に進めることとは無縁な、じっくり推理するというところにこそ愉しみがあるということを判っていない。このパイロット版の受けが悪ければ次回はない、ということなのかもしれない。無くなるよりは、残せるものなら残したい、ということなのだろうが。それとも今の視聴者の大半は、一日じっくり考えるという愉しさよりも、早く答えを知る即効性の方に愉しさを感じているのだろうか。ドラマ自体は、小粒なネタながらもなるほどなるほど、と愉しめただけに、どうにも居心地の悪い思いをした。

という不満がまだ新しいところに、「安楽椅子探偵」の新作だというので喜びもひとしお。「綾辻行人有栖川有栖からの挑戦状8」。ということは8作目。それはいいとして、前回の「安楽椅子探偵と忘却の岬」から8年ぶりの新作ということに驚愕。そんなに経っていたとは思いもよらず…。

〈あらすじ〉いまや都市伝説となった安楽椅子探偵を、舞台で上演して好評を博している、劇団超煽情シアター。フリーターの山科笛美は、現在失業中。ふとしたことで劇団のことを知り、安楽椅子探偵をブログのネタにしようと取材を申し込む。彼女がたまたま拾った笛をみせられた劇団主宰の天王寺満斗は、その笛はまさに安楽椅子探偵を呼び出す笛だと言い、譲ってくれと頼む。困ったときに吹くと一度だけ助けてくれるというその笛を身近に置いておくために、天王寺は失業している笛美を劇団で雇うと誘う。こうして笛美は、製作助手として働くことになった。ところが、新作上演中の千秋楽、殺人事件が発生。幼馴染の刑事とともに、笛美は事件解決のために動き回るのだが…。
今回は、知っている俳優さんがひとりもいないということが衝撃的。関西の劇団を中心としたキャストなのだろうが、こうも見事に知らないというのは今までになかったように思う。とはいえ、それでは盛り上がらないということは、一切ない。隠されたネタを目を皿のようにして探し、言葉のひとつひとつに耳を傾けなければ、事件解決の糸口はつかめないのがこのドラマである。普通、一回みたドラマを二度も三度も見返す人はそういないだろうが、これに関してはそれが当てはまらない。何度も何度も繰り返しみることになる。その繰り返しの中で、馴染みのなかった俳優たちは、昔からの知り合いのような顔馴染みになって行くのである。こういう特異さも、このシリーズの愉しさではなかろうか。

さて、それでは今回の犯人は誰なのか。千差万別の回答が寄せられているはずだが、番組宛の回答は500字以内という制限がある。わたしも以下のようにまとめて投稿してみた。

14日の夜、着登板を裏返して帰ったふりをして劇場内に隠れ、ひと気が無くなった後に椅子にペンキをかけ、椅子に毒針を仕込む。一晩を場内で過ごし、翌日鍵が開けられた後に外から入ってきたふりをする。15日午後3時頃に資料室で楽太を撲殺。その際にネックレスがちぎれて室内に散らばる。4時半に笛美が事務所に来るので、急いでネックレスを回収する必要に迫られる。前に荷物が置かれたために壁のコンセントに気付けず、コードレス掃除機の存在も知らなかったため、古い掃除機に新たに紙パックを装着し、デジタル時計のプラグを抜いてもうひとつのコンセントを使い掃除機をかけた。そのため時計の表示がずれ、棚の最下段にある本の並びを変えてしまい、加えて植木にネックレスの粒を回収し損ねてしまう。その後、椅子が汚れていると舞台監督に声をかけ、自ら率先して古い椅子を使うように持って行った。脅迫を実現させるために、安楽椅子探偵に舞台上で死んでもらわなければならないので、楽太の死を隠し、安夫に衣装と(粒の順序が違った)ネックレスを渡し、安楽椅子探偵を演じるように指示。天王寺に罪をかぶせる為、ラニシンの瓶を引き出しに隠した。
誰を真犯人にしたかわかりますかね?というか、これだと誰でもいいんじゃないか?と自分でも思いますね。わたしが真犯人と読んだのは、田辺空彦。しかし、犯人と特定出来るはずの決定的な何かを見つけられず、田辺くんじゃないのかなあ、くらいの感じ。

もしも、本当に着登板を裏返して、場内に一晩隠れることでペンキをかけたのなら、これはもう誰にでも出来ることである。アリバイだって、ドラマ上では完全に確定しているわけではないし。15日午後3時の撲殺だって、誰にでも出来る。ただ、4時半ころに笛美が事務所に行くことを知っている人物は限られていて、これは劇団の中崎安夫を除く全員。もちろん、舞台袖で外部スタッフが聞いていたという可能性もあるし、これも特定はしづらい。なんとか見つけたそれらしいところは、コードレス掃除機が千秋楽の午前中に届くことを知っていたのは、DMを送るための作業をしている場にいた、笛美、天王寺、駒川、平野、守口、長田の6人だという点。ということは、この6人の誰かが犯人なら、急いでネックレスを回収するときにコードレス掃除機を使ったのではないかと想像出来る。わざわざ時計のプラグを外して古い掃除機を使ったのは、それを知らなかったから、というわけである。となると、殺害された中崎楽太、安夫を除けば、残りは、緑橋、江坂、田辺、金山、黒川、植木の6人。緑橋の龍角散は、ネックレスを隠すためのレッドへリングに相当すると判断して除外、華奢な江坂が、楽太を殴り殺し、ロッカーに放り込むようなことは出来ないと考えれば残りは4人。劇団事務所に入るための合鍵の場所は、劇団員は皆知っていたということなので、そうなると消去法で行けば、田辺が残るのである。もちろん、外部スタッフだって、劇団員の誰かと親しければその置き場所を知っていた可能性はあるし、コードレス掃除機だって「千秋楽に届くことなんて覚えとらんわ!」とか「あとで聞いた」とか、解答編のやり取りの中で、「プッ、お前、そこに引っかかったの?」とバカにされる可能性もあり…。あ、もしかして、資料室での楽太の殺害は、本来予定しない突発的なものだった、という一言を入れた方が良かったのかな。犯人の筋書では、楽太に嫉妬した安夫が、舞台上で楽太を毒針によって殺害。その後安夫がラニシンを使って自殺しているのが資料室で発見される…というものだったのではあるまいか。でもこれは、ドラマ上からは、想像は出来るけれど、推理と言えるものではないからな。解答としては点数にはならないだろう、仮に当たっていたとしても。

わざとあいまいになっているところがあちこちにあって、特定は本当に難しい…。が、毎回、限りなく低いパーセンテージでありながらも正答率の高い人がいるのだから、これで答えを導き出す人は今回もいるのだろう。綾辻行人によれば、「今回はそれほどでもない」くらいの難易度らしいので、正解者は多いのかもしれないが…。やはり難問である。恥をさらしただけかもしれない…。だが、これだけ愉しませてくれるドラマもそうそうないのも事実。結果はどうあれ、最高の遊びであった。あとは、解決編の放送(13日(金)深夜1:34〜)を待つのみ!

追記:解答編感想はこちら。