眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

安楽椅子探偵 ON STAGE 解答編 感想

さて、皆さま方の推理の結果は如何だったでしょうか…。犯人=田辺空彦説は、残念ながら大外れ…。江坂紗夜と書いた人が60%もいた、というのはショッキングな事態でした。犯人の名前の正解率としては、これまでで一番高いのでは。応募総数が6819通。推理の構築に成功しているのは32名、エレガントな解答者は2名。ということで反省会に突入。

反省その1。椅子にかけられたペンキが、犯人特定の大きな要素になっているとは。ペンキは誰にでもかけることが出来るので、それほど重要なことではない、と早々に結論を出したことが大間違いだったか…。帰ったふりをして劇場内に潜み、全員がいなくなったところでペンキをかける、というのは現実的で無理がないと思うのだが、無理があるとかないとかではなく、まず意識を向けるべきは、「どうして椅子のあの位置にペンキがかかっているのか?」と疑問を持つことだったのだ。そうすれば、ドライアイスを使った時限装置という発想も生まれてきたかもしれない。また長田吹子の発言で、終演後は「俳優は飲みに行くし、外部スタッフは早く帰る」というものがあったが、ここには内部スタッフがどうかということは含まれていない。さりげなく、犯人の正体に触れているのだった。しかしこれもまったく引っ掛かりを憶えないまま…。

反省その2。犯人がどうして楽太を殺してしまったのかという理由。首にかけたタオルでネックレスが隠れていたから、安夫と勘違いしたとは…。単純な理由だが、理由があったことに驚いた。何らかの突発的な理由があったのだろうとは思ったけれども、理由はどうあれ、殺してしまった、ということが重要であり、何故楽太が来たのか、安夫が来なかったのか、何が理由で楽太は殺されたのか、それらはどうでもいいと思って。これらは犯人特定のためには必要がないという判断ですな。動機や理由を追うことは、推理ではなくて想像になってしまうと。でもエレガントな解答的にはどうやらこれは外せなかったようですな。ああ、そうですか…という感じ。

掃除機のくだりは、まあほぼ正解と自負したいところだったが、コンセントの穴の一つがふさがれているかどうかの判断を、幅木と棚から推測するとか、掃除機を使ったのは単にちらばったネックレスを回収するのではなくソファの下の取りにくいものを回収するためだったとか、微妙に外してしまったというか気付かなかったこともあり、解明されるとどよんとした気持ちにもなる。

解答編放送後、あちこちと見て回ると、どうやら世間的には今回の評判はよろしくないようだ。犯人の名前が当たった人が60%というのも驚異的な数字なので、やはり綾辻行人が言うように初心者向けということだったのだろう。が、個人的には、今回ネットでの情報収集は一切しなかった。その結果がこれなのである。推理力はどうやらないようだが、他人の意見をまったく聞かずに自力で解くことが面白いのだなあと、改めて思った。初心に帰りましたよ。

でもなあ…。答えが出ている以上どうこういうのもなんだが、江坂紗夜を犯人とするには無理がある…というか、どうして犯人から除外したのかという理由が、華奢な女性に男が殺せるか?というところだった。殺せる、まではいいとして、死体をロッカーに運び込めるか?ということである。黒子姿の犯人が、コンセント前に置いた荷物を動かそうとしたが、重くて無理だった、という描写がなされている。あの荷物がどれくらい重いのかは判らないが、5、60キロくらいのものと想定してみる。笛美と吹子が二人がかりで、おそらく三階の稽古場から下してくるには、それくらいが限度ではないかと。女性二人で50キロのものをひいこら言って運んでいるのに、楽太の体重は50キロではすまないだろう。痩せているように見えるが意外とごつくも見えるし、筋肉質で70キロ近いかもしれない。そんな重さのある死体をあんな華奢な女性がひとりで動かせるのか。しかもロッカーに入れるには、段差を乗り越えなければならないのだし。それに、ペンキの仕掛けのときにしても、小道具の近くにいることに無理はないけれど、人が少ないとは言え、あんな作業をする余裕があるかどうか。出入り口そばの、舞台の裏が見えるところに劇場主の戸越は座っていたんだし、どういう理由で天王寺や長田がやってくるかもわからないのに。リスキー過ぎる。また、毒針を仕込んだ椅子を、誰かが触る可能性もある。舞台監督の金山や田辺が、針に刺さらなかったのは奇跡としか言いようがない。これもリスクが高すぎる。今回の評判がよろしくないのは、実際に犯行を起こすには、無理が多いから、というのがあるんじゃないですかね。

今回の結果、評判などは、原作のご両人も判っていることだろうから、次回がもしもあるとすれば、かなりミステリ強度の高いものになるのではないか…と期待したいところですね。外した奴が偉そうに言うなという感じですけれど。

あとは、ドラマ部分に関して。笛美の物語として始まったのなら、笛美で締めてほしい。最後の最後に天王寺の思いに急にクロースアップして、彼のドラマとして終わってしまった。これは大いに不満である。確かに、笛を吹いたのは天王寺だから仕方ないと言えば仕方ないのだが。また、劇団員たちが事件をどう考えているのかとか、このあと劇団がどうなるのかとか、そこらあたりまでフォローしてくれないとドラマとしては物足りない。エピローグに相当するものがないので拍子抜けしてしまった。純粋推理空間での悪ふざけのような芝居は、相変わらずで愉しかったけれども、これもちょっと薄味だったようにも思えたし…。ディレクターズカットはもうちょっと長いのかなあ。製作期間も短かったのかもしれない。

それから俳優さん。もしかしたらテレビドラマのあちこちでちょこちょこと見かけているのかもしれないが、本当に馴染みのない方たちばかりで…。主役(だと思う)の山科笛美を演じているのは、吉川莉早。可愛いですよね。映像作品はあまり多くないみたいだけど。他の俳優さんたちも、これからは「あ、出てる出てる」と思って見ることになるでしょう。それもまた愉しみ。