眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「アナザースカイ」 柄本佑のオリヴェイラへの愛

昨日(2017.2.17)放送回は、柄本佑がゲスト。彼が向かったのは、ポルトガル。3年前に新婚旅行で訪れて以来ということだが、どうしてポルトガルを選んだのかという理由が、マノエル・ド・オリヴェイラの国だから、というもの。妻(安藤サクラ)には、「(旅行に)ついてきてもらった感じ」というのが微笑ましくも、自分の我を通す一面のようにも見えてなかなか侮れない。

あまり海外慣れしていない佑の、例えばジェロニモ修道院に入っていくときの様子の「怖え」という言葉や表情が、非常にピュアに見えるのがよろしく、感受性の強さ、高さも感じられて、ああきっとこれが今後の彼の演技にも生かされるんじゃないかな、という予感が働く。純粋に、経験が力になるのではないか、と。好きだから出来る、というシンプルな強さというか。

何にもまして感動的なのは、彼がオリヴェイラが大好きだということ。「美しい夏キリシマ」でデビューした頃に初めて見たというのだが、10代でみて感動したというその感受性に痺れる。わたしが「アブラハム渓谷」を見たのは27の時だったけれど、感動には程遠い「眠かった」という感想しか持てなかった。それ以来、オリヴェイラは苦手でずっと見ていない。

佑のポルトガルの巨匠ヘの愛は深く、シネマテカ(映画博物館)で生前使用していた撮影用カメラをみて興奮し、俳優リカルド・トレパに面会し、時間をオーバーしても熱心に話を聞き(トレパが「時間過ぎてるけどいいよ、もっと話すよ」という姿勢にもグッとくる)、番組スタッフを新婚旅行の際に偶然見つけた(「階段通りの人々」の)ロケ現場に案内し、ギマランイスでは遺作「レステロの老人」の撮影場所と同じ場所に立ち、そこが巨匠の自宅前だったことを知り、そして眠る棺を前にして、オリヴェイラへの、映画への愛を再確認するのだ。その姿に、熱いもの、胸にこみあげる何かを感じずにはいられない。一途に映画に向かう姿勢に、こんなに感動させられるとは。映画が好きだ、という気持ちにこんなに正直に向き合えるなんて。しかも、楽しんで見ている感じが何よりも素晴らしい。…柄本佑、イイ奴だなあ。

アブラハム渓谷」は挫折したが、あれから20年以上経っている。

あの頃は、身の丈に合わない映画を無理して見ている気がして困惑したけれど、今この予告を見ても(言葉は判らないけれど)そんなに戸惑うような映画には思えない。年を取って、やっと気楽に映画を見られるようになってきたということなのかな。