「銭形平次」 「茶室の殺人」 感想
BSフジで放送が始まった、北大路欣也版の第1シリーズ(1991年)の第2話。たまたまみていたら、茶室内で起きた密室殺人ものだったので、思わず引き込まれてしまった。
女将亡き後の店の実権を誰が握るのは、番頭か花板か。アリバイのなかった者たちが、お互いを疑いながら罵り合うこの場面、遠慮会釈ない物言いが面白い。その様子を陰からそっとうかがう銭形の親分の姿も、ハードボイルドな気配があっていい感じ。
この醜い争いにかかわらない板前が、もう一人いる。彼こそが、この物語の主人公。かつて彼の母親は橋菊に勤めていたが、病に倒れ、途端に店を放り出されてしまった。母子二人の貧乏暮らし、息子は修行して料理人となるが母は死んでしまう。そして自分たちを見捨てたその店に、彼は半ば復讐するような腹積もりで雇われていたのだ。本当の姿を隠して。が、女将はそれを知ってか知らずか、彼を可愛がり、将来的には店をまかせるつもりにもなっていた。しかし決定的なことが起きる。恋仲の仲居が母と同じ病となり、店を辞めさせられたのだ。母のときと同じことが繰り返される現実を前に、板前の怒りが次第にふくれあがっていく…。
動機はまあそういうことなのだが、肝心の密室殺人の行方も、なかなかに魅力的だった。現場を調べていると、平次は天井に血が飛び散った跡を見つける。どうすれば、天井にまで届くように血が跳ねるのか。夜分、縫物をしている妻お静の後ろ、障子越しに揺れる竹(というより笹?)の影、子どもたちが竹細工で石を弾いて遊んでいたことを思い出した平次は、殺害方法に思い至る。
窓近くに座っていた女将は、人の気配に気づいて振り向く。そこには、庭に生えている竹を手元にぐいっと引き寄せた板前が立っていた。その先端は鋭く斜めに切られており、板前は女将の喉元を突き刺す。抜いたときの抵抗で竹は激しく揺れ、そのとき天井に血が飛び散ったのだ。平次は、その竹を見つけ出すと、寛永通宝を投げつけ、その先端を切りおとす。そこには、見まがうことなく、血がこびりついていた…。
密室殺人に惹かれて見たのは間違いないが、その真相にそれほど期待していたわけではない。が、これは想像していた以上にトリッキーで、本格濃度はなかなかに高いと思った。特に、天井に散った血の跡、というところに本格ミステリとしての面白さがある。どうすればそんなことが起こるのか?という謎が、密室以上に魅力的だった。
複雑な環境の下で殺人に手を染めてしまう板前・西山浩二、板前の様子を見守る、昔から店に勤めるおやじ・佐野浅夫、と俳優たちも好演。しかし一番印象に残ったのは、腕はいいのだろうが荒っぽい言葉使いの花板を演じた成瀬正孝。かっこいいんですよ。彼は途中で店をやめて出ていくのだが、そのときに仲居の一人が「あたしもついてくよ」というと、何と答えたと思います?「好きにしな」ですよ。かっこいいなあ。そんなこと普通言えるかね?
放送日/2017.4.7.(金)/BSフジ