眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「サプライズ」 感想

監督/アダム・ウィンガード

あらすじ
結婚35周年のお祝いで、郊外の邸宅に集まった家族。パーティーが始まるその時、何者かの襲撃を受ける。外から弓矢が飛び込み、邸内にも殺戮者が潜んでいた。奴らの正体、目的は何か。そして生き延びるのは誰か。

この日本版予告は、観客に変な期待をさせ過ぎで、よくないと思います。

以下、結末に触れています。


感想
この邦題は、どこを指しているのだろう。誰にとってのサプライズなのか…と。観客にとって、サプライズ足りえるかどうかは、作品の認知度や期待度によって変わるだろうから、そこは微妙な感じにはなるだろうが、少なくとも劇中の人々にとっては、全員にサプライズな展開だったろう。

隣家で起きるオープニングの殺戮は、ホラー映画の定番中の定番風。もはや安心してみてしまうほどである。「毎度どうも、いつもお世話になっております」くらいにお馴染みである。犯人にとっては、まずは殺戮の前哨戦という感じだろうか。本番当日、逃げた人間が助けを求めにいくことを見越してのことだろうが、とんだとばっちりである。このとき学生がCDをかけるのだが、リピート再生になっていて、このCDが何度も繰り返される。延々と続く殺戮の夜を暗示するようだ。隣家に警察がやってくるまで、CDが鳴り続けているであろうことも恐ろしい。人がもういないのに、ずっと鳴り続けているという不気味さは、そんなことを想像した物好きだけにしか判らない異様さである。

前半は、正体不明の人間による殺戮という形で、ホラー映画らしさが濃厚。ボウガンの矢が、頭に、背中に刺さる。ワイヤーで首がサックリやられて血が噴き出す。などの痛々しい死に方が、年を取ると結構こたえる。

殺戮が始まると、次から次にという感じで犠牲者が出る。面白いのは、そこで次男クリスピアンの彼女エリン(シャーニ・ヴィンソン)が突然活発に動き出すこと。話が進むうちに語られることによると、父親が少々頭のおかしな人で、資源の枯渇を恐れて自分たちだけが生き延びようとし、その結果、子供の頃はサバイバルキャンプで育ったというのである。サバイバル術を、このとき徹底的に教え込まれたということだが、あの殺戮を前にしてあれだけ冷静に行動できるのか、犯人とはいえ、人をあんなにあっさりと、しかも完全にとどめを刺すような殺し方が出来るのかと、それがまず恐ろしい。中盤で明かされることだが、襲撃してくるのは、傭兵である。彼らは殺しのプロだろうから人の死には慣れているだろうが、彼女はそうではあるまいに。それに彼女は、必ず頭を攻撃して絶命させており、それが一人二人でなく、全員に対してというのがまた恐ろしい。しかも相手は傭兵である。そんな奴らを相手に…。凄い。というか、奴ら、傭兵だったのかな。ただの素人だったのでは、と思ってしまうほどの不甲斐ないほどのやられっぷり。軍需産業、というところが引っかかって勝手に傭兵と思い込んでしまったのかも。エリンがしかけるトラップにまんまとはまってしまうところも酷い。釘のつき出した板を2つ用意したトラップのところなど、油断は禁物である。

正体不明の何者かの襲撃であった前半だが、やがて三男フェリックスとその彼女ジーが、遺産目当てに計画したことだったことが判り、映画の様相はそこでがらりと変わる。たった一人で奮戦するエリンが主人公になり、アクション映画へと変貌。閉じられた空間で孤立無援の戦いを強いられた人は、これまでにもたくさんいたが、ホラー映画で、女性が、しかも類まれな戦闘スキルを持って、というのは、意外に少ないようにも思う。そこがこの映画の面白いところ。ヒロインがうまく立ち回り活躍すればするほど、凶悪なはずの殺人者が出し抜かれ間抜けに見えるという、怖さを大幅減退させるホラー映画の轍を踏まずに済んでいる。思い出してください、古い話になるが、ネーヴ・キャンベルが逃げ、ヘザー・ランゲンカンプが果敢に立ち向かった結果、犯人や怪物がオウ!とかギャア!とか言ってひっくり返っていたことを。戦う術を持った女性が逆襲に転じる、そこからサスペンス色の濃いアクション映画へとスライドさせる展開は、巧みで計算高いところ。

面白いなと思ったのは、親子と兄妹の関係。父親は、長男ドレイクと長女エイミーのことは気に入っているようだが、次男クリスピアンと三男フェリックスに冷たいことが、それとなく描かれている。クリスピアンは大学の教授のようだが、支援金が出ないらしいことをぼやく。父は、軍需企業を引退し、莫大な富を得た人物なのに、この次男のためにお金を出してやろうというそぶりは見せない。また、その後、長女カップル、三男カップルがやってきたときには、エイミーには「わたしのプリンセス」といって喜ぶくせに、フェリックスには握手のみ。久しぶりに会ったのだろうから、抱き合ってもよいはずだろうに、そんなことはしない。最初から、父と、次男三男の関係が良好でないことは明白であり、あまり良好ではない親子関係を、さりげなく描写する辺りは、なかなかうまい。

長男ドレイクがまた嫌な人物として描かれている。未だにクリスピアンをデブ呼ばわりし、全く彼を認めていない。やり方が子どものいたずらのようで、見ていて実に不愉快である。だが、殺戮が始まるや、ドレイクはクリスピアンに向かって言うのだ。「なんでこんなことをしたんだ」と。なんという慧眼!元々嫌っていたからとはいえ、この時点で真犯人の正体に勘付いてしまう長男。そして、それが事実だと判ると、クリスピアンは、仕事においてはプロとは言えず、デブではないと言いながらも実際にはぽっちゃりしている事実は否めず、気も弱く、ずるく、親の金を当てにした甘ったれた人物だったことがはっきりしてしまう。父親や長男は、そんな次男の性質を見切っていたということになる。彼らの冷たさは、次男の性質にあきれていたからかもしれないのだ。最初は、長男こそがろくでなし、と思ってしまうが、実は彼はごく真っ当な、しかしひと言言わずにはいられないちょっと面倒な人だったということなのかもしれないのだ。エリンが逆襲に転じるほどの戦術家であったという変化ともども、親子及び兄弟関係が変化することの面白さも、あなどれない作劇。

母親がバーバラ・クランプトンだったのが、個人的には一番のサプライズだった。このとき51歳だが、4人の子持ちというには若すぎないか。と思うほど、美しい。

YOUR'RE NEXT/アメリカ/2011/