眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります 感想

監督は、リチャード・ロンクレイン。2014年のアメリカ映画。

感想
モーガン・フリーマンダイアン・キートンが夫婦という設定で、映画の訴求力としては満点。40年住んだアパートだが二人も寄る年波には勝てず、エレベーターなしの5階の部屋は少々きつく売りに出すことになり、映画の前半は、その内覧会の様子のあわただしさが描かれる。テンポよく、人物の出し入れの呼吸も悪くなく、さまざまなニューヨーカーの姿がどこか滑稽に描写されていく。次の部屋を探すためにふたりもあちこちと見て回ると、毎度顔を合わせる人たちがいる。彼らの様子なども可笑しく愉しく、まだそれぞれの人生の断片も見えて悪くなし。そんな描写の間に、ふたりの40年の間にあった、ふとした出来事の記憶が断片的に挿入される。若き日の二人を演じる、コーリー・ジャクソンとクレア・ヴァン・ダー・ブームもいいが、特にクレアは、若い頃のダイアン・キートンの姿が目に浮かぶ再現ぶり。そしてこれらと並行して、橋で起きた爆破事件と逃亡する犯人(と思われるイスラム系)の男の行方、愛犬の手術(1万ドルかかる…)のことなども描かれていく。

が、例えばそれらがスケッチのように描かれるのであれば、それは映画の一風景として受け入れられたように思うが、いかにも意味があることとして描かれ、ドラマの後半では展開上のきっかけにも利用される重要な要素となる割には、うまく使い切れていない感じが強い。全体の見せ方があまりにも実直に過ぎることでごくごく平凡な映画になってしまっているのは勿体ないとは思ったが、そのあっさりとしたところも味と言えば言えなくもない。彼らが如何に、このアパートとこの街とこの生活を大切にしてきたか、また思っているかという所が、実直過ぎて繰り返しのような見せ方となり、結果、映画全体が平板な印象になっている。不動産業をやっているシンシア・ニクソン(キートンの姪だったかの役)が、振り回されて儲け無し、となった途端に悪態をついて去っていくのも、笑っていいのやらどうしていいのやら。現実はそんなものなのだろうけれど、後味はあまりよろしくなかった。

一見、いい映画風にまとめられているので、悪口が言いにくいところも罪深い。90分そこそこの映画だが、処理の仕方が好みと違い過ぎ、またありきたり過ぎて、大変長く感じた。