眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

デッド・ノート 感想

夏のホラー映画まつり、第5夜。

監督は、ブライアン・オマリー。2014年のイギリス=アイルランド映画。「未体験ゾーンの映画たち2016」では「デス・ノート」のタイトルで上映。

この予告、見せ過ぎだと思いますね。

出演
リーアム・カニンガム(謎の男/アレクサンダー・モンロー:クレジットではsix)
ポリアンナマッキントッシュ(レイチェル・ヘギー)
ダグラス・ラッセル(マクレディ巡査部長)
ブライアン・ラーキン(ジャック)
ハンナ・スタンブリッジ(マンディ)

感想
ジョン・カーペンター調の音楽にのせて、荒れた天気の海岸に高波が押し寄せる中、一人の男が現れる。カラスが泣き叫びながら、まるで彼に付き従うように群れをなして移動していく…というオープニングのただごとでないかっこよさと不穏な気配が素晴らしい。大いに期待を抱かせるわけだが、その予感が外れることなく最後まで維持されたため、予想外の高得点という結果になった。

注意:内容・結末に触れています。

赴任したての警察官ヘギーの目の前で起きる衝突事故。しかし車に跳ね飛ばされた男の姿がどこにも見当たらない。巡査部長によれば、轢いた若者は、警察署では常連のろくでなし。地下の牢には既にこちらも常連のDV教師が入っている。パトロールをさぼってセックス三昧のジャックとマンディが、指示を受けて、轢かれたと思われる男を連れて警察署に戻ってくる。男は、頭を打って脳震盪を起こしている可能性があるために、医者が呼ばれる。という具合にして、役者が揃う。実は、ここにいる人々は皆、隠し事がある。それも大罪である。巡査部長は敬虔なキリスト教徒のようだがそれは世を忍ぶ仮の姿、本当はゲイで、嫉妬の果てに若い(恋人?)男を殴り殺している。若者は、謎の男を轢く前に、若い女性を轢いている。DV教師は言うまでもない。ジャックとマンディは、容疑者を尋問という名の拷問で殺している(首吊りにさせられた瞬間の男の顔が生々しい)。医者は、結局、すべての人を救えないというストレスから精神に変調を来し、家族を惨殺。そしてヘギーには、少女の頃に誘拐監禁されたという過去がある。ただ、一つ意味深なのは、ヘギーは監禁されて虐待されていたのは間違いがないが、その犯人がどうなったかは判らないままなこと。他の署員たちはその辺の事情が判っているようで、それとなく匂わせる場面があるからすると、どうもヘギーが殺したようにも見られる。

そして謎の男。彼の指紋から照合された人物は、既に死人だった。謎の男は、正体不明で人知を超えた存在であり、言葉巧みにここに集められた6人の心を翻弄し、ゆさぶりをかける。彼らは追いつめられて、ある者は自殺し、ある者は殺されしていくのだが、謎の男自身は殺すことは出来ないらしく、心の暗闇をいたぶられる結果、いわば自滅に近い形で罪を死で贖うことになっていく。面白いのは、どうやら謎の男は堕天使であるらしいこと。神に、人の世界を傍観するだけでなく、もっと介入したらどうかと進言したために、地上に落とされた。が、羽を失ったあと、地上で彼なりに仕事を全うしているのだ。傍観者のまま、人の世に直接触れることは出来ないという神の罰を受けながらも、その立場で罪人に死を与えるために、黒い天使となった男。あるいは死神か、悪魔の手先か。その彼が、監禁から救い、その後をずっと見守っていたのがヘギー。長い時間をたった一人で歩き続けた男が、ようやくたどり着いた救いとなるのが彼女…となるラストシーンも、見る人によっては感動的なものになる。例えヘギーが、男にとっての殺しの実行部隊となるのかもしれないという想像が働いたとしても、それもまたそれで、心を震わせる結末となる。

映画の作劇的にも、閉鎖空間となる警察署内だけで物語を進行させないところに工夫があって良い。前半は、登場人物の所業を見せ、謎の男の不可解な言動と行動というミステリアスな展開。そして中盤でジャックとマンディが、連絡が取れない医師の家へ赴き、巡査部長は急に用事が出来たと言って外へ出ていく。物語の行く先を一旦分けて、その先で残虐な見せ場(?)を用意して気を惹いたまま、再び戻す。しかも後半、戻ってきたときには、それまでとは一転してバイオレントな描写満載のアクション映画に転調。巡査部長がキリストみたいな恰好でショットガンをぶっ放してまわり、ヘギーは、(ジャンル映画ではお約束の)タンクトップ姿になって戦う。登場人物の少なさと、物語の広がりの無さから低予算であることは判っているが、見せ方、構成、道具立てなどで、面白い映画は作れるのだという、低予算映画の鏡のような作品である。実はセットもきちんと作られていて、加えてロケーションにも手を抜いていないことも素晴らしい。この物語に係る人物たちだけが世界から切り離されたかのような、まるで人の気配のない町の様子を挿入するひと手間が、ダメな映画との差なのである。かなり面白く見ましたよ。

ゴアな描写もあれこれとある辺りが、低予算のホラー映画らしいところだが、血の色に生々しさがなく、特殊メイクがそれほど精緻でないために、思っていたほどでもなかった。もちろん、ホラー慣れしていない人には要注意ではあるが。

リーアム・カニンガムの得体のしれない感じが実に良かった。過去に苛まれながらも果敢に戦うポリアンナマッキントッシュも良い。「エグザム」のときの彼女もよかったが、ここでも良い。因みに「エグザム」は、低予算密室疑心暗鬼系サスペンス映画としては、かなり退屈。元々このジャンルに対して厳しいせいもあるけれど。