眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

誰よりも狙われた男 ★★★★

監督 アントン・コルベイン/2013/米=英=独

ハンブルクに国際指名手配犯イッサが密入国し、父の遺産を手に入れるために銀行家のブルーに接触。テロ対策責任者のバッハマンは、ブルーと、弁護士リヒターを強引なやり方で協力させ、イッサを泳がせる作戦を取る。小魚で大魚を釣るために。が、そのやり方は、上層部や介入してきたCIAには快く思われず…。

泳がせた対象者が、その上に存在しているより大きなテロ加担者に接触するときを狙うというスパイ活動は、極めて地味で地道なもの。最終的な目標を手中にするために、その外堀を着実に潰し埋めていく過程が、淡々と描かれていく。イッサが、何を考えているのかが判らないままなので冷やかな緊張感が持続され、見えない核心に翻弄される一方で、バッハマンの行動原理が「平和的に解決」というところにも危うさが見え隠れし、スリリングな駆け引きが続く。が、クライマックスで彼の行動や信念に嘘がなかったことが表面化したとき、映画は急速に熱を生じさせ、しかし一気にその熱を奪っていく。交錯する人々の視線が苦過ぎる、その居たたまれなさ。淡いブルーと色を失ったようなグレーを基調とした画面には、彩度が不足した薄ら寒さがあり、非情の世界を際立たせていた。