眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

ジャケット ★★★

監督 ジョン・メイバリー/2005/アメリカ/NETFLIX/

92年の湾岸戦争で負傷し、逆行性健忘症を患い除隊したジャック。あてのないヒッチハイクの途中、ジャッキーとその母ジーンの乗る車が立ち往生しているのを手助け。次にヒッチハイクした青年とカナダ国境へ向かうが、警官に停められた青年がいきなり発砲し警官は即死。ジャックは記憶の欠損から犯人にされてしまい、精神病院に入れられる。薬を注射され死体安置用の引き出しに放り込まれるという謎の治療を施されたジャック。意識が覚醒すると、彼は2007年にいた。

タイムスリップの物語は、たいてい過去に戻ることが多いが、未来へと飛ばされるのが面白い。といっても、そこから過去(現在)に戻ることで未来の出来事を変えようとするので、結局はお馴染みのパターンになってしまうのだが、さらに面白いのは、ジャックが自分の未来を救おうとはしないことである。彼は1993年の元旦に頭部を負傷して死んでいることが判るのだが、それを回避しようとはしない。起こるべきこと、避けられないこととして、それを受け入れている。だから彼がとる行動は、自分の死を回避することではなく、自分は何故死んだのか?その理由を探るということになる。人権無視の人体実験を繰り返すベッカー医師の行動、ローレンソン医師の煮え切らない反応、看護師たちの暴力的な介助など、怪しい人物が登場するが、物語はそのミステリをも本筋とはしない。2007年で出会う女性こそ、92年の少女ジャッキーの未来の姿であり、彼女と触れ合うことでジャックは、避けられない未来であってもその中で自分の生をまっとうしようとする、そこにこそ映画の主眼は置かれている。その結果、命のぎりぎりで、改変された未来を見るジャックの、しあわせそうな笑顔がなんとも切なく、美しい。

メビウスの輪のようにねじれたタイムパラドクスによって、ローレンソンが少年の命を救い、またベッカーの心に消えない傷を残す脇筋のドラマも、味わい深く余韻を残す。冬枯れの風景もまた、精神的な意味で凍てついたような病院内や、幸福とは言えないジャッキーの人生などを、より寒々しく見せる。冬でなければならない理由があるにせよ(ジャックの結末)、この物語には冬が似合う。ラストの未来が、雪解けになっていることも胸を熱くさせる。

しかし女性看護師、マッケンジー・フィリップスでしたか。久々にみて驚きました。