眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「柔らかい女」 感想


柔らかい女』(冨明仁エンターブレイン)

短編集。巻頭に収録されている『BOXSEAT』がこの時点でいちばん新しい作品だと思うが、せまいボックスシートの中で微妙に(足が)触れ合ってしまう男女のせめぎあいが丁寧に描かれている。収録作品で面白かったのがこれ。その前に描かれている『彼女と彼』全三話がその次に面白い。

読んで思うのは、絵がすべてだ、ということだ。初期から未発表の作品までが収められているけれど、短編作品としての面白味というのは正直どれにもない。語りのうまさや話の面白さも薄い。が、上に挙げた2作品は、時間と共に上達する画力がそれをカバーする形になり、(言葉は悪いかもしれないが)他愛のない内容と、絵の持つ力がそこで初めて絶妙なバランスを獲得したと言えるのではないか。ここに至るまでが習作だったということだろう。