眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「トリプル・タップ」 1月13日(日)の日記

昨日はシネマート心斎橋で『トリプルタップ』。

レスリー・チャン主演の『ダブルタップ』の続編…といっても話には直接の繋がりはないのだろうが、アレックス・フォンが同じ役で出演している(のだろう。前作未見)。捜査に行き詰ったダニエル・ウーが協力を要請、犯人の心理をプロファイルするというよりも、降霊術の如く犯人そのものになりきって犯行時の行動を再現する、神がかりのような人。『MAD探偵』を思い出した。話としては枝葉の部分だが、クライマックス近くには、狂気の淵に降りて行くところがあり、そこはもうちゃんとした見せ場。前作が好きな人にはまた違った感慨があると思われる。

今回、ダニエル・ウーの刑事が疑いの目を向けるのは、その人生に何も恥ずべきところのなさそうな、投資会社に勤めるエリート、ルイス・クー。銃の競技大会で同じところに3発、弾丸を重ねるトリプルタップの技量をもつほどの男が、現金輸送車の強盗事件に遭遇し、負傷した警察官を助けるために銃を取って反撃し、撃退してしまう…英雄的な行動であると世間では認められながらも、警察は民間人による銃器の使用及び殺害という点を違法として逮捕。看護師(シャーリーン・チョイ)との静かな生活を求めているルイスには、会社の女上司との関係もあり、この上司(リー・ビンビン)は彼の為に莫大な保釈金も用意するほどルイスに惚れており、その間で身動きが取れないルイスの姿がなんとも痛々しい。二人の女、自分の行動を疑う刑事、更に話が進むにつれ、もうひとつの重大な展開が描かれて、これがこの物語の真相に繋がっていく。ひとり静かに行動し、ふりかかる事態に苦悩するルイスの姿を淡々と追う前半は、よって非常に地味な展開となるが、もっと派手なものを想像しただけに予想外で、シリアスな映画としての面白さがある。普通に生きている人間が、犯罪に巻き込まれたために運命が変わっていく、というような。次第に追い詰められていく後半は悲劇性がにじんだサスペンスとなり、これは最近続けてみている香港製犯罪映画同様。複雑に絡み合う人間模様が、ほぐすことが出来ないまま、もつれあいながら、救いようのないクライマックスに向けて突進していく。今回もまた悲しく、やるせない…。

ルイスを巡る二人の女があまりにも悲しい。リー・ビンビンがどちらかといえば悪い女っぽく描かれているが決してそれだけの人ではないし、シャーリーンの儚げな風情もまた印象に残る。でも『白蛇傳説』の方が色っぽくて可愛くて良かったな。映画が映画だけにしょうがないけれど、ほとんど笑顔を見ることが出来ないのも残念。また、ダニエルとルイスの間には、追う者追われる者という関係でありながらも、ほのかに友情めいた感情も生まれ、微妙な心情をドラマがさりげなく掬っていくところも見どころだと思う。イー・トンシン作品としては『大魔術師』よりも良かった。

あ、それとここにもマイケル・ウォンがちょっとだけ出ている。こうして続けて香港映画を観ると、自分がただ知らなかっただけで、懐かしいと思った俳優さんたちがちゃんと活動しているのだということを実感するな。ここ数年の香港映画の公開状況がどれだけ酷かったか、ということでもある。この作品も、東京は2週間、大阪は1週間の限定公開という、最初っからDVD発売に合わせてのプロモーション上映。これが香港映画を取り巻く興行事情の現実だろう。HDカムによる上映も厳しいものがある。だがそれでも観に行ってしまうのだ。それで少しでも状況が変わるのなら、喜んで足を運ぼう。

トリプルタップ [DVD]

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