眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

『コレクター』をみる


脚本(共同でポール・A・ライデン)・監督はモーガン・オニール。偶然にも『ドリフト』という監督作品が今上映されている。

ジョエル・シルバーが絡んだダークキャッスルの製作。タイトルクレジットでそうかと思ってその心づもりで観始めたが、ホラー色は薄め、現実的な猟奇犯罪サスペンス映画だった。実際にあった事件をモデルにしているというが、公式サイトなど覗かずに映画をみて良かったとつくづく思うのは、事件の概要が映画の内容を完全にばらしてしまっているからだ。少しでも映画を楽しみたいと思うのならば公式サイトへのアクセスは厳禁

娼婦の連続失踪事件を追いかけ続けている刑事にジョン・キューザック。だが予算不足で捜査が打ち切りになる中、新たな事件が発生。さらに、自分の娘が娼婦と間違われて連れ去られてしまった。果たして父は娘を救出出来るのか!

冬のモントリオールで撮影された寒々しさが、サスペンス映画としての雰囲気を高める要素としてよろしい感じ。キューザックの相棒のジェニファー・カーペンターが常にニット帽をかぶっているのもそれらしくていいなあと思ったり。話自体は知ってみればよくあるものかもしれないが、犯人の目的が最初は判らず、次第に明かされていく展開になっているのはなかなかスリリング。その異常さがはっきりしてくると当然、不気味さも上がり、ダラス・ロバーツのねちっこい芝居の変態ぽさにも鈍い輝きが増してくる。映画としては大変こじんまりとしたものであるのは間違いないが、小品ながらも小味なサスペンスとしては文句のない出来栄えだと思った。モーガン・オニールの演出もダレず(脚本も自分で書いている割に)、独りよがりな思い入れもなく、サスペンスの盛り上げに奉仕されているのもいい。暗闇の中をよたよたとしながらも犯人に近づいて行くキューザックには、犯罪映画の主人公として結構重要であるとわたしは思っている、ある種の弱弱しさがあってこれも悪くない。『推理作家ポー』が全然個人的にはダメだったのだが、普通の人を普通に演じるキューザックには魅力がある。

もうひとつ面白かったのは、ソーニャ・ヴァルゲル演じる一家の母親。娘のやることなすことがいちいち気に食わない様子。娘が消えて、気にかけるカーペンターに対して、子どものいない人にはわからないわ!と言い放つ場面。カーペンターの戸惑いの表情が痛々しい。また、夫であるキューザックに対しても。よれよれのキューザックが、みんなが(娘を)探してくれている、というと、彼をじっと見つめて、でも父親ではないわ、というのである。このプレッシャー凄すぎ。自分の感情に忠実すぎて、周囲に対する気遣いがない。映画自体が家族についての物語でもあるが、その中でこのヴァルゲル演じる母親の存在も、複雑な気持ちを抱かせ、ざらっとした後味を残して行く。さらりとしか描かれていないが、恐ろしい。対比されるいくつかの母親と実はそう変わらない。

この作品のタイトルは『コレクター』だがその上にもうひとつ正式邦題(?)として『ジョン・キューザック スペシャル』というのが乗っかっている。このあともう一本『殺しのナンバー』という作品が公開されるのである。日活はどういう事情でこの2作品の連続公開に踏み切ったのだろうか。しかも、大阪ではアポロシネマ8と109シネマズ箕面での公開。通常ならば梅田ブルク7かシネリーブル梅田あたりでやりそうなのだが…。わざわざチラシをつくり、前売券まで発売されて(セットで2000円の格安価格)いるが気分的にはほとんど捨て公開のような形。それとも単純に、最近のシネリーブル梅田のジャンル映画連続レイトショーと似たようなものなのか。無名俳優の映画とは違って少しはお客も入るかも、と少し規模を大きくしてみた、とか。詳しい事情を知りたいところである。