眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

『悪いやつら』をみる

脚本・監督はユン・ジョンビン。

面白かった。詰め腹を切らされた税関職員チェ・ミンシクが、横取りした麻薬を使ってヤクザの世界へ入っていくというのが、まず凄い。元々そういう世界に近い人だったとはいえ、一般的な理屈はまず通らない、暴力が全てとも言えそうな世界へ入っていくのは勇気が要りそうだが、わりと平然としている…とはいえ、根は小心者なので常に虚勢と張っているのがまた情けなくて、しかしその愚かしさ、やってることが判り易過ぎて単純なところには、なんともいえない憎めなさもある。口八丁でごまかし、煙に巻き、尊大にふるまうとか思うと、気配りも忘れず、その全てにうまく立ち回ることでお金をせしめる、どうしようもない人。対して、たたき上げのヤクザ者のハ・ジョンウは実に渋く、義理がたく、男らしい。にもかかわらず、いやむしろそれゆえに、それがあだになるというか、次第にミンシクのペースに巻き込まれてしまい、面倒くさいことになっていく。面白いのは、血のつながりがどこまでいっても付いて回る、肉親とか親戚とかの関係で、どんなに暴力的なヤクザでもそれには頭が上がらないというのが衝撃的なほどだった。さすがにこういう光景は日本では見られないだろう。韓国特有の世界なのだろう。

前半は生来のいい加減さで、裏社会でのしあがっていくミンシクの姿がちょっと痛快な、ピカレスクなサクセスもので面白いのだが(津島利章テイストな曲がかかったりも)、後半は軽快さは消え失せて、一応の地位と金を手に入れてしまった者たちの、鈍く光る疑心暗鬼と裏切りの話になっていく。そんな中だからこそ、クライマックスでのミンシクの決断の、ぎりぎり加減がぐっとくきたりもするのである。

とにかくキャラクターが、これはもう皆、素晴らしい。全員がいい味出し過ぎ。ミンシクの義理の弟はテコンドー七段というわりに全然頼りにならないところとか。ジョンウの右腕のおかっぱ頭の人とか。常に仏頂面で。↓この場面とかもう最高。

あと検事もすごかった。竹刀を持って登場し、のらりくらりとごまかそうとするミンシクをその竹刀で滅多打ち、蹴りもズバズバ入れてくる。ヤクザと変わらんよ。

誰もしあわせにならない、全くの他人ごとはどうにも愉しくてたまらない。あとイケメンが一切いない(ハ・ジョンウをどう思うか、くらいか)のが素晴らしい。いい顔のおやじばかりの映画ってなんて豊かなんだろう。