眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

『ニシノユキヒコの恋と冒険』をみる

脚本・監督は井口奈己。2014年の作品。

カメラは据え置かれた状態で、ほとんど移動もしない。そういう画は好きだけども、みなみ(中村ゆりか)とニシノの学校の前での「だるまさんがころんだ」のやりとりや、葬式に向かう坂道でのやりとりなど、ちょっと作為が目立ち過ぎるのではないかと余計な心配をした。少し距離をおいた撮り方で、女の子とおっさんの戯れは、ついつい男の妄想のように思いがちだけど、女性でもこういうふうに演出することもあるのだなと(もしかして、冒頭から、中村ゆりか阿川佐和子に会う辺りまでと、エピローグ部分にはあまり関心がないのではないのでは、とも思ったが)。また幽霊であることを笑いに結びつけるところも、無理してそんなことしなくていいのに、と思ったけど、どうなんだろう。あと、通行人などの、画面への入り込み方が如何にも、入ってきてます、と感じられるほど、あざといというか、演出過多な感じもした。作り込み方のセンスが、わたしの好みとは違うので、うまく乗り切れなくて歯がゆい。

などと思いながらも、ニシノの恋の遍歴が語られる中間部はとても愉しく、面白かった。ゆるゆると、ふわりとしたニシノの行動と、竹之内豊の微妙な柔らかさが見事に溶け合って、独特の男前ぶり。明快にどこがいいといえない、曖昧さが不思議な魅力。女性たちが、最初はなんだ?と思いながらも、素直に彼を受け入れていくのもおかしくてエロティック。女優がみな素晴らしかった。全身が映るショットが多くて、体のラインを意外としっかりと、ねっちりと撮っているのも印象的。竹之内豊とイチャイチャする各シーン、皆エロい。エロい描写があるわけではない。撮ってる側の視線がエロいのだ。エロティックさとは、裸とかセックスとか、直接的な表現があれば感じさせられるものでもないのだ。

自分が主体とならない人間関係しか構築出来ないニシノは、どんなにモテても、寂しい、という気持ちから逃れられない。天に召されていくのも、女性たちとの関係に納得したり満足したりではなく、娘(的)な存在によって、というところに、女性との関係だけでは埋められなかった彼の孤独を感じさせ、ちょっと切ない。本当に、女性が好きだったのか?という疑問すら浮かんだ。