眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

妖女ゴーゴン(1964)

THE GORGON

監督はテレンス・フィッシャー。

イマジカBSで。

傷やゴミが全くないわけではないにせよ、新たにレストアされたのであろう映像は、昔みた、色褪せたものとは全く違うもの。映画自体が森や城を展開の中心としているゴシックホラーなので、元々の色彩設計も地味目ではあるけれど、鮮明になると、変な言い方だけど、その地味さが実によく味わえる。おちついた色合いの中に、ゴーゴンのまとったドレスの、特徴的なグリーンというカラーが映える。衣装はさすがに華やかな空気を放つもので、スーツ姿のカッシングとクリストファー・リーも渋いお洒落心が窺えて素敵だが、やはりバーバラ・シェリーが見どころ。仕事中のブルーのブラウス姿(ちょうど胸のところだけが生地が薄めになっていて胸のラインが少し出るのがいやらしい)。
出かけるときのオレンジ…とピンクの中間くらいかな…の色合いのものとか、茶色のフード付きのコート…というかオーバーというか…もいい。特にコート姿で古城の玉座みたいなところに座る場面の気品さよ。衣装に限らず、セットでも色の配置とそれを浮かび上がらせる照明が素晴らしい。決して派手な色使いではないけれど、落ち着いた中に華やかさがある。ハマーの映画は、予算はそれほど潤沢ではなかったと思われるけれど、映画が映画らしかったころのゴージャスさが、きちんと描かれているなと思いました。

メゲーラ(ゴーゴンというのはファーストネームではないんですな。ラストネームなのか怪物の総称なのか。ここではメドゥーサ、ティシフォニー、メゲーラ三姉妹という設定)は何もしない、そこに立っているだけ。勿論、夜道を歩く人に近づいてくるという意味では、何もしないわけではないのだが、だからといって、噛みつくとか、掴みかかるとか、そんな直接的な行為には出てこない。傍によってくるだけ。例えば幽霊の存在も、別に何かしてくるわけではないのに、この世あらざるものがそこにいるということ自体が恐ろしいように、メゲーラの何もしなさ感もそれと同じような不気味さがありますな。 

以下ネタばれ。一応ミステリ映画としての趣向もあるので。
愛する者を守るために、異常な事態に口をつぐんでしまうカッシング。自分がメゲーラと知らないシェリーは、どうしてカッシングがこんなに自分の行動に干渉するのかと、彼の愛情を疎ましく思っている。やがて兄と父を失ったリチャード・パスコが村にやってきて、シェリーは彼と恋に落ちる…。三人それぞれの思いが、すれ違いで相手に届かない。そして最後は殺し合うことになってしまうという、悲しい三角関係。誰ひとりとして救われない物語…。切断された首が、メゲーラからシェリーへと戻ると、穏やかで安らかな眠るような表情なのがまた泣ける。それを確認して絶望しながら息絶えるパスコの姿にも涙。事情を知っている年上の男、自分の性悪さを心の奥では知っていたかもしれない女(おびえるシェリーと、カッシングを死に追いやった瞬間にメゲーラがみせる満足気な笑みの対比)、何も知らない若い男。恋の邪悪な面に囚われた人たちの、救われないドラマでしたな。
ホラー映画と思っていると、その実、渋めの恋愛映画。思わぬ魅力が隠れているものであります。
予告編↓

あと、全編みられますな。字幕はないけど。そういえば、今回の放送の字幕、台詞に全然趣がなくて、雰囲気不足。もっとそれらしい言葉を選んでもらいたいと思いましたよ。現代が舞台じゃないんだし、それぞれの人物の年齢や職業や立場を考えて、台詞をつけてほしいよ。あまりにも平易すぎるんじゃないかなあ。