眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

B級ビデオ発掘カタログ


伊藤勝男・著/青弓社

1988年刊行の、映画のガイド本。ビデオバブル期、本当にクズのような映画のビデオが、ゴロゴロしていた時代。玉石混交な作品群から、玉をみつけて紹介しようという、太い心意気に満ちた、熱い一冊。その熱さゆえ、芸術的映画を盲信し、隠れた才能の発見になどまるで関心のない映画評論家、金にならなければ公開しない映画業界、あるいはある種の女性層に対する激しい蔑視など…「危険な情事」にちょっと触れているところとか、なんもそこまで、というほどキツイ…、今読むと少々乱暴なところもないわけではないのだが、偏った姿勢ゆえに、偏った映画を語ることが出来ているとも言える。たまに読み返すと、自分の目で見て判断する、一番正直な映画の見方を学び直す感じがして、ある意味、人生の一冊。

誰もしらないような映画のタイトルが並んでいるので、ちょっと紹介すると「ザ・コネクション」「フラッシュポイント」「夜よ、血をあらえ」「地獄の狼」「ジェイソン/地獄の綱渡り」「ザ・スコーピオン」「皆殺しの抗争」「ドア・トゥ・ドア」「パワフルエイミーの裏表私生活」「先生はムショ帰り」「天国から来たジャズマン」「ターミナル・チョイス」「ブラッド・リンク」「暗黒の首領」「地獄のキャラバン隊」「最終監房」「謀略海域」「謀殺の標的」「タトゥー」などなど。どれも見たことがない…。

昨今は、だいぶ色んな映画のDVDが出揃ったように思いますが、それは錯覚だということが、読み返してよく判る。調べてみると、ここで紹介されている映画の大半はDVDになっていない。みようと思ったら、VHSを置いているレンタルショップか、中古屋を漁るか、あとはネットオークションか…。テレビ放送もないこともないかもしれないが、望み薄…。つまり、(少なくとも国内盤としては)もうおそらく見ることの叶わぬ映画ばかりになってしまっている。しかし、むしろそれでもいいではないか、とも思える。まだ見ぬ映画へ、思いを馳せることが出来る。また、かつて見た、しかしもう見ることの出来ない映画は、見返せないからこそ、美しい思い出だ。どちらの思いも、ささやかな夢である。人生にひとつやふたつ、そんなロマンがあってもいいではないか、と思うのです。