眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

地平線から来た男(1971)

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監督は、バート・ケネディ
ジェームズ・ガーナーのとぼけた味わいは、演技だけのものではないんじゃないかな、と思わせてしまう。ガーナー本人のキャラクターなのではないか、というくらいのはまり役。
女を騙して金にありつく詐欺まがいで世の中を渡る男、ラティゴ。調子のいいことばかり言って、羽振りのいいところもみせるが、何故か23という数字に弱い。ルーレットの目に全財産をかけてすってんてんになる。そして茫然自失。なんとかお金を稼ぐ方法として、口八丁な腕の見せ所、凄腕のガンマンをでっちあげて用心棒代を手に入れようとするのだが…。
という話も罪がなくていい(罪は罪だが、誰も不幸にならない)。ガーナーの調子のよさ、いい加減さがある種痛快(ちょっと、植木等のようでもある)。どんな危難も飄々と乗り越えていきそうなのに、それが、ギャンブルとなると目の色が変わるのは、ギャグ以上に鬼気迫るものもある。持ち金を全部賭けてしまうのは尋常ではない。みている側も、笑いながらも、えっ?と、いらぬ緊張感を覚える。そのあとのギャップ(頭を柱にぶつける!)がそれで更に生きるのが楽しい。
調子がいい、ということは別の面からみれば卑怯、とも言える。が、彼と組んで偽ガンマンを演じていたジャック・イーラムが、土壇場で、俺はもう逃げない、戦う。と言い出す。ガーナーは戸惑うのだが、それならばと覚悟を決めるところは、さすがに西部劇の男の心意気。そうさせたイーラムがとてもよくて、ちょっと頭は弱そうだが憎めない。何よりも、彼はガーナーのずるさを、非難しない。逆に、俺を助けてくれた、と感謝さえする。俺はお前を赦すよ、と。そりゃあ、少しは本気も出そうってもんで。
列車が深夜に、駅に到着するというのはあまりみたことがない。しかも昼間のような人の往来で、まさに眠らない町みたいなもの。炭鉱で栄えている町で、作業が三交代なので、夜なんてないようなものなのだ。この眠らない感じが、映画をより騒々しく狂騒的にも見せて、賑やかで明るい雰囲気にもなっている。こういう、ただただ、楽しいだけの映画は、わたしの見渡す範囲には、本当に見かけなくなってしまった。でもまだ世界のどこかにあるはず。見つけきれていないだけと信じて、地道に映画をみるのみ。
スザンヌ・プレシェットがすごくいい。このとき33才。それなのに娘役ということに衝撃を受けるのだが、それが全然おかしくないくらいに可愛らしい。おてんばというかじゃじゃ馬というか…どっちも死語ですが…それが、急にしおらしくなるところとか、まあツンデレみたいなものですけど、そこもよかったし、何よりコメディエンヌとしての勢いのよさが予想外に素晴らしかった。あまり映画史に残るような出演作がないので、当時は人気があっても、後々にまで名前が残らないというのが惜しいですな。うちの母親は、映画の話しをすると、スザンヌ・プレシェットとかミレーヌ・ドモンジョとかパスカル・プティとか、よく名前をあげてたな。その世代の映画好きが話すと、必ず名前が出るんだろうけれど。昔の作品を探すのはなかなか大変そう。とりあえず持ってるDVDの中では「黒ひげ大旋風」に出ているようなので、これみてみるか。全然記憶にないんですけど。
スザンヌ・プレシェットの、在りし日の美しい写真の数々はこちら…。