眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

ジャージー・ボーイズ(2014)

監督はクリント・イーストウッド

ザ・フォー・シーズンズの結成から成功、そして分裂…という音楽業界の裏舞台と、四人の青春と挫折が描かれる。こういう音楽映画が堂々とジョウビジネスとして成立しているところに、アメリカのエンターテインメントの奥深さを感じる。

画面の色味を落としてあって、独特のノスタルジー風味があった。はっきりしたカラーでないところが、遠い過去を現在から眺めているような感覚(ドライブの場面が、如何にもリアあるいはフロント・プロジェクションのようにみえるのがうれしい)。突然、ビンセント・ピアッツア演じるトミーが、観客に向かって語りかけてくるのも面白くて、フランキー(ジョン・ロイド・ヤング)以外の3人はところどころで画面をみつめて話してくる。ともすればバランスを崩しかねない4人の物語を、視点が多角的になることで、過不足のないものとするあたりは、脚本の技だろうか。音楽映画として素晴らしかったのは、ゴーディオ(エリック・バーゲン)を加入させるかどうかのテストの場面。ピアノを弾いて歌うゴーディオに、まずフランキーがコーラスで合わせ、ニック(マイケル・ロメンダ)がベースで続き、しぶしぶトミーがギターを合わせてくるところ。音楽が、歌が、バンドが生まれていく瞬間が、本当に感動的に描かれていて、ここは劇中一番、美しい場面だったと思う。

こまかいところで、ぐっとくるところがいろいろあった。トミーの借金と素行の悪さにブチ切れてしまったニックが、もうやめるといってクリストファー・ウォーケンの家を出ていくのだが、そのあとを、ウォーケンが追いかけてくるの。短気起こすなよ、って。グループの中では地味な扱いになりがちなニックを引きとめようとするところに、ウォーケンという人の考え方がよく出ていると思って、ちょっと泣けた。いろいろあって馴染みの店の馴染みの席に、深く座りこんでいるフランキーに、ゴーディオが新曲を渡す場面。やるきがないというフランキーに半ば無理矢理楽譜を渡したゴーディオが、去り際に、自分の巻いていたマフラーをフランキーの首に巻いてやる。「やるよ、風邪をひくなよ」という。ちょっとした優しさだけど、これもなんだか沁みたな。映画全体としては、話しらしい話しが特になく、小さなやりとりや気持ちの行き交うさまを、丁寧にすくって紡いでいる感じだったな。劇的にしないところに節度があって、簡潔。内容は決して美しいだけのものではないのに、映画自体の佇まいは美しい。イーストウッド映画、と思うからそう感じるのだろうか。

俳優たちは、馴染みのない人たちが多いのだが、全く気にならない。「ジャージー・ボーイズ」の名もしらぬ俳優たちの顔は、しばらく忘れないだろう。年のせいか、大作映画の主役の印象がどれも薄くて…。娯楽として派手になり、過剰な見せ場が重要視されると、俳優の存在は希薄になるのかもしれないね。年を取って来ると、味わいとか雰囲気とかを重視するように、映画の見方も変わってきましたな。すると、単に美しいとか醜いとかでは測れない、そんな俳優の顔をよくみるようになってきて。よく、いい顔のオヤジ、という言い方をするでしょう。あれも、若い人が言ってるのと、年取った人間の言ってるのとでは、意味が微妙に違っているのではないかと思っている。

俳優で注目したいのは、あえて主役たちではなくて、フランキーの娘・フランシーヌ(7歳)を演じた、エリザベス・ハンターですな。夫婦喧嘩をして、ふとフランキーが階段を見あげると、フランシーヌが踊り場に座って見下ろしている場面。(昔よくあった)フランス人形か!天使か!と思いましたが…。たぶんこの作品だけでの輝きかもしれませんな。これ以外では、普通の娘さんになってしまいそうな気もします。実際、他の写真をみていても、普通なんですよね。↓この写真は、少し美少女っぽいかな。

他に心にひっかかったのは、フランキーが初めてステージにあがって歌う場面で、彼を熱くみつめる女の子。かわいいんだけど、肩にすごいシミがあるんで、びっくりした。アメリカ人はシミのことをそれほど気にしてないんだろうか。それから、教会に忍び込んで歌う場面で、ニックの彼女が「どこに行くのよ。「人喰いアメーバ」がみたいわ」というところ。字幕は石田泰子さんだったと思うが、よくぞ「ホラー映画」とか「ブロブ」とかに置き換えないで「人食いアメーバ」としてくれた。あの映画が好きな人間としては、それが嬉しい。他にもゴーディオが作った「ショートショーツ」が「タモリ倶楽部」のテーマ曲だとか、リンゴ・スターは本当に寛大な人だなとか、にやにやさせられるところもあり。ラストのタイトルシーン(変な言い方)というか、カーテンコールみたいな、出演者が歌って踊る場面の多幸感も素晴らしかった。このシーンは、DVDでなら何度でも繰り返して見たいところだな。

日本映画では音楽映画というジャンルはほぼ死滅している。どうして「ピンクレディー物語」とかやらないんだろう。芸能史のひとつの時代を描くとなると、小さい規模では映画にならない。凄いお金をかけてゴージャスに華やかに作らないと意味がない。メジャーでないと無理なんだから、そこでメジャーの底意地をみせてほしいんですよ。それが商売になって、お金も入りますよ、と誰かが示さないとダメなんだろうけど、そんな七面倒臭いことはもう誰もやりませんよ、と。関係各位の調整が難しいとか、権利がどうのとか、どうせそんな理由で。で、てっとりばやくベストセラーの小説とかコミックの映画化になる。映画自体に罪はないけれど。

追記:期間限定でカーテンコールが公開中。