眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

悪魔の墓場 感想

2015年 夏のホラー映画まつり その1

映画の作りとしては、非常にぎこちない。あまりスマートな出来栄えとは言えないが、ホラー映画としての魅力は、そんなことで削がれたりはしない。むしろ、そういうぎこちなさのある不器用な作り、安普請であるからこその不気味さが生まれるのが、ホラー映画というジャンルの強みであり面白さであろうと。

久々に見返して面白かったのは、害虫駆除のための超音波発生装置によって死者が甦る、というSF的な趣向で始まるのに、甦った死体はオカルトの範疇で行動すること。溺死した乞食のガスリーは、死者のボスのような感じで行動。殺した人間の血を、眠る死者のまぶたに塗ると次々に甦る墓場の場面が印象的。また、死体は写真には映らない。鏡にも映らない。あと、火をつけると不自然なくらいに燃え上がる…。ゾンビ映画とオカルト映画が混ざりあった感じが、以前は不満だった。が、見返してみると、もう人間ではない、だが単に死体が動いているだけでもない、別の世界の物、という感じがオカルトっぽくていいな、と思う。不自然なくらいに死体が移動するのも、人智を超えた存在になっているからかもしれない。ラブロックがバイクで街を出るところは、当時の環境悪化や、人心が荒れていることを強調していたが(その中にストリーキングがあるのが懐かしい感じ)、その上でさらに、人は自らの手で地獄の門を開いてしまったのだ、と…。物語自体はこじんまりとしていながら、その背景は分不相応なくらいにでかいスケール。後年のルチオ・フルチ映画に繋がるものがここにある、とも思える。

田舎の風景は、人の気配が薄い。自分以外に頼れるものはなさそうで、それくらいだだっぴろい中で、クリスティーヌ・ガルボが得体のしれない男(ガスリー)に追われるというのは、かなり恐ろしい。明るいし、緑もあって、のんびりした風景の中で、突然出現した異形のものに襲われる。変態に狙われたときの恐怖がリアルに伝わるというものである。即物的と言ってもいい、その恐怖に対して、ホラー映画らしいムード醸成も素晴らしい。霧が立ち込める夜の村、ひっそりとした病院の様子、意味ありげにゆっくりとしたカメラの動き、闇や影の作り方や、暗いところはちゃんと暗いという描き方などなど、雰囲気満点。それだけでも、個人的には充分嬉しいところであるが、ゾンビメイクの生々しさも素晴らしい(特殊メイクは、ジャネット・デ・ロッシ)。体の前面が縫われている死体のなまなましさとかたまらない気色悪さ。腹を裂かれて臓物が引き出されるとか、乳房を引きちぎられるとか、頭に斧がぶっ刺さるとか、過激な描写もあり。個性的なゾンビたちの中でも、気に入っているのは、クリスティーヌ・ガルボの姉の夫である、マーティン。生前は髪をなでつけているのだが、死んだあとは乱れてきて、やけにふんわりした髪型になっている。その違いがどこか微笑ましい。

アーサー・ケネディ演じる物判りの悪い、頭の固い刑事は、映画的には悪役になる。が、見た目とやっていることに違和感がなく、悪い意味で行動に一貫性があるので、実はそれほど腹が立たない。レイ・ラブロックやクリスティーヌ・ガルボの方が、(事情はあるにせよ)威圧的であったり自分勝手だったり、あるときはやけに攻撃的だったりして、少し落ち着けよ、と言いたくなってしまった。それはこちらが年を取ったことと、全く無関係とも言えまいが。

あと、イギリスが舞台だったこと。イギリス公開時のタイトルは「THE LIVING DEAD AT THE MANCHESTER MORGUE」と、かなりダイレクト。そうか、だから俳優が英語喋ってたんだな、と今更ながら。

パイオニアLDC版のDVDは、古いもののせいか(2002年発売)、みていると少々画面がチラつく感じあり。盤面が劣化してきているのかも。このDVDの特典にはサントラが、アイソレイテッドスコアとして収録されているのが嬉しいところ。でも一曲づつしか聴けない仕様で、全曲まとめて聴けない。BGMとして使えないところが勿体ない。

2004年に、初めてネット通販で購入したDVDがこれだった。この後、DVD地獄にはまっていくことになった。懐かしい思い出になってしまったが、もう11年前のことだから、それも仕方ない。

監督 ホルヘ・グロウ/LET SLEEPING CORPSES LIE/イタリア=スペイン/1974/