眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「世界で一番パパが好き!」 感想

音楽業界の宣伝マンとしてやり手のベン・アフレック。しかし愛する妻(ジェニファー・ロペス)は娘を出産した直後、息を引き取ってしまう。ベンは、長らく連絡も取っていなかった父のもとへ戻り、妻の形見である最愛の娘を育てることを決心するのだが…。

決心するまでが長いのである。そしてそのあともグダグダとしている。そんなベン・アフレックに、あまり共感出来ないところがミソ。いい父親になろうと努力しているが、心の奥には昔のようにニューヨークで一流の宣伝マンとして働きたいという野望がくすぶっている。何かの拍子にそれが露骨に出てくると、鼻持ちならない尊大さもうっすら見える。妻との過去に、ニューヨーク時代の栄光に、ずっと縛られ続けている。

しかし実際、生活のためと子供のために、あっさりとその栄光を投げだせるものだろうか。そのあたりの、質の悪いあがきが結構しつこく描いてあって、結果それは自分勝手な考えと行動になるわけだが、しかしそこに同情もしてしまう。むしろ、子供のために自分の人生を一旦捨てる、という割り切りこそが、娯楽映画としては、安易な逃げではないのか、とすら思える。この映画のベン・アフレックくらい、迷い、葛藤してこそ、血の通った人間という感じもする。

ベンの父が、ラストで、「ひとりで死にたくない」という場面にやけにぐっときた。ずっと孤独に生きて来て、家庭的な温かさとは無縁にやってきた爺さんが、息子と孫との暮しの中で、その温かさを取り戻し、もうひとりになりたくない、と思う。これ、やけに実感こもっているな、と思ったら、エンドクレジットに、ケヴィン・スミスの亡き父へのメッセージがあった。「パパに会いたいよ」って。こここそを描きたかったのかもしれない。

娘を抱きかかえて踊るベンの姿で映画は終わるのだが、じっと見つめ合う二人の姿が尋常でないほどに熱っぽい。何にも代えがたい大切なもの、なんだろうけれど、娘を通して妻をみているような、変質的な様子にもみえて、ちょっと恐ろしく感じた。まあ、妻からの贈り物と考えれば、そういう目にもなるのかもしれないが。娘は娘で、それを受け入れているようでもあり、そこも怖い。監督のケヴィン・スミスの我が子への愛情は、これくらい強いもの、ということなんだろうけれど…。

少々、毒の強いセックスがらみの場面、おむつを変える場面の露骨さ、「キャッツ」を小馬鹿にして「スウィニー・トッド」を持ってくるセンスなど、なかなかきわどいところがあるのだが、どういうものをこの映画に望むかで、面白いか、退屈か、その判断も分かれそう。

子役がジェニファー・ロペスに似ているのもよく、かわいらしい。また、赤ちゃんもこの子役にそっくりなのもびっくり。さすがハリウッド、ショウビジネスとして徹底している。

リヴ・タイラーがあまりにもあり得ない無理矢理な女性として登場してくる割に、後半では普通の人になってしまうのは勿体ない。もう少し、変なままでよかった。せっかくキュートなのに。がっしりとした肩幅に萌える。

ベン・アフレックは、表情に幅がないので、何を考えているのか判らないような役では映えるのだが、娘に向ける表情や仕種が重要になる今回のような役は、どこか冷たい感じに見えてしまうのが難。「ゴーン・ガール」や「アルゴ」ではその無骨で薄い表情が似合っていたので、役選びも俳優としては大切だな、と思った。エージェントも、キャスティング担当も、その辺を考えてあげてほしい。

世界で一番パパが好き! [DVD]

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なんと、DVDは廉価盤が出ておらず。HDDVDにはなったようだが、ブルーレイにはなっていない。好きな人にとっては、簡単に買えない状況。こういうことは、さっさとなんとかしてもらいたい。

脚本・監督 ケヴィン・スミス/JERSEY GIRL/2004/アメリカ/BSプレミアム