眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「ザ・スナイパー」 感想

<あらすじ> 妻を亡くして一人息子クリスと暮らしているレイ(ジョン・キューザック)。何かと問題を起こすクリスとの絆を深めるために、父と息子はキャンプに出かける。しかし森の中で、フランク(モーガン・フリーマン)と出会ったのが運のつき。フランクは政府のために汚い仕事を引き受ける暗殺者だったのだ。

以下、ネタばれ前提での感想を書いています。

中盤に、何の仕事をしているのか、そして何故その仕事をやっているのか、という話しをするところがある。フランクは、「最初は意味のあることだと思っていても、やっているうちによく判らなくなった。あとはただ目の前の仕事をやるだけさ…」みたいなことを口にする。フランクは元少佐で、1974年だかに失踪したとなっている。表からは姿を消し、裏で政府機関にとって邪魔な人間を密殺、暗殺する使命を受けたのだろう。ずっと隠れて生きて来たのが、車の事故で病院に運ばれ、指紋から正体がばれてしまう。彼を利用してさまざまな汚い仕事をやらせてきたFBI(CIAじゃないんだね)は、それらが表沙汰にならないうちにと、フランクを始末しようとする…。映画のオープニングでは、フランクが一人、将校の資料を焼いているところから始まる。あれは同じようなことをしていた元軍人の仲間、あるいは部下が死んだということだろう。彼が軍人だったことを知る人間は、資料を焼いてしまうことでこの世にはいなくなる。男は完全に、別人としてこの世を去るのだ。そこにある無情と非情。そんな世界にフランクは生きている。

モーガン・フリーマンが演じる殺し屋には、彼が演じて来た役柄を踏まえたものが、勝手に加味される。共に行動するうちに、レイやクリスとの関係にも微妙な変化が生まれてくるが、「ドリームキャッチャー」の例もあるので、本気で信じていいのかどうかは判らない。お金のためには、なんでこんな映画に?というものにちょろっと出たりする、そんなドライさもそこに加わる。役柄への思い入れなど、この人にはないのだ、と。お金を積まれれば、どんな悪人も平然と演じるだろう、という。ある意味プロでもあるが…。それは、ジョン・キューザックにも言えて、彼が口を閉ざして考え込むと、何を企んでいるんだろう?という怖れを感じてしまう。あまりにも、不安定に揺れる役が多いためだ。見る側に疑心暗鬼を起こさせる俳優ふたりが、のらりくらりと駆け引きをする。そんなところが、個人的には面白かった。

今回のフランクたちの暗殺計画に、あとから参入してくる口の悪い男、これが実はFBIと繋がっていて、フランクの暗殺を50万ドルで受ける、という展開になる。これはどういうことだろう。元々、作戦失敗の際のフランクの口封じ役というのが、必ずチームの中に仕込まれていたのだろうか。それとも、たまたまチームに、FBIお抱えの殺し屋が参加していたのだろうか。

見せ場としては、雨の中、断崖を降りて行くところや、岩だらけの場所にかかった頼りない橋を渡っていくところなどの、自然の景観とあわせたサスペンスになるのだが、画面全体に漂う少々チープな感じが、本物かどうかを迷わせるので、微妙な味わいである。ちょっとCGで加工しているのかな、と思わせてしまう。

息子を人質に取られながらも街に降りて来れたレイは、フランクの言葉尻から、狙われているのが、街を訪問する大統領ではないことに気付く。山中で解決せず、そのあとに終盤戦があるのも嬉しい。だが、全体にのんびりとした映画。必要な諸々を置いて来てしまったようなところがあるので、強烈な面白さの映画にはなっていない。が、モーガン・フリーマンジョン・キューザックという組み合わせは嬉しいし、地上波の吹替では、こういう映画を気楽にみたい、という気持ちもある。他人様の感想をみても、色々と突っ込まれており、それは確かにその通りなのだが、あまり目くじらを立てずのんびり見たい。


予告だと凄く面白そうだが…。

監督がブルース・ベレスフォードというのも凄いが(ハリウッドで、もっとも不遇な扱いを受けた監督だと思う)、撮影もダンテ・スピノッティである。何かの間違いとしか思えないが、こういうこともある。観光気分で撮影したのかもしれない。

THE CONTRACT/アメリカ/2006/日本劇場未公開/サンテレビ