眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「キートンのマイホーム」 感想

イマジカBSでみたのだが、どうしてこれだけがぽつんと放送されているのか。どうせなら空いた時間に、短編を放送してほしい。

〈あらすじ〉めでたく結婚したキートン夫妻。だが、妻に横恋慕している男が悪さする。自分で作れる家のキットの手順を、ペンキで書き換えてしまったのだ。完成した家は歪んで異様な形になってしまい、キートン夫妻も「?」と思いながら住み始めるのだが…。

ピアノを運び込もうとして悪戦苦闘したり(天井の照明に、ピアノを結わえた綱をひっかけて、ぐいっと引っ張るが滑車がすべるみたいにならなくて、照明が引っ張られてしまう。天井はえらく柔らかい布のようなものを張っただけのようで、二階の床がぐいぐいと引っ張られて沈んでいく。たまたま二階にいた作業の人は、キートンが手を放すとその反動で飛び上がり、屋根を突き破ってしまう)、屋根に煙突をつけようとよろよろと登って行ったり…、と文章にしてしまうと何も面白くないが、映像でみているとばかばかしくて楽しい。

ジャッキー・チェンキートンの影響を受けているのはよく言われたが、壁が倒れて来ると窓のところに立っていたので何事もなくすり抜けるとか、梯子をすべるように降りてくるとか、本当にまんまなので、キートンは偉大だなあ、ジャッキーは凄いなあ、と改めて感心している次第である。

クライマックスは、新築パーティーに客人を呼んでいるところに嵐が来て、立て付けが悪いのか、家がぐるぐると回るところ。外に放り出されたキートンがなんとか中に入ろうと家のまわりを走るところも凄いけれど、室内で翻弄される客たちがどうなっているかを見せる場面が素晴らしい。やっとのことで中に飛び込んだキートンをカメラがぐるぐる追いかけていると、客人たちが部屋の隅に寄せ集められているのが判るのだ。もしも実際にこんなことになったら、部屋のあちこちの隅の部分にひっかかって分散されると思うのだが、全員を一か所に集めてしまっている。でもこのインパクトは強烈。一瞬で何が起きているのかが判るし、笑いも集中する。見せ方がうますぎる。そのあとは次々に放り出されて行って、嵐が止むのを待つしかないキートン夫妻。客人のひとりが「メリーゴーラウンド愉しかった。でも木馬があるともっといいね」というのが可笑しい。

翌日、家を補修しようかというときに、なんと「あんたの土地はここじゃないよ」という知らせが来て、しょうがないので家の下に樽をかませて移動させることに。ところが途中で立ち往生し、そこに汽車が…という有名なラスト。ああもうだめだ〜となったとき、「汽車は家の横を素通りしていき、ホッとしたら逆からきた汽車に木っ端みじんに破壊される」。ここも強烈なギャグ。売り家の看板を立てて、キートン夫妻は去っていく。

こういうサイレントの短編をみていると、映画を作ることの意味を、もう一度考えなければならないのでは?とも思う。簡潔にして明瞭、セリフなし。それでもこれだけ描けて充分に面白いのだから。