眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

ヒッチコックに進路を取れ 感想

山田宏一和田誠/草思社/2009

1978年の映画対談集「たかが映画じゃないか」から31年、今度はヒッチコックについて徹底的に語ろう、という趣旨の下に刊行された、ヒッチコック映画対談集。

その基になっているのは、レーザーディスクヒッチコック映画が発売されたときに、解説として対談したものだそうで、しかし今やLD文化はほぼ死滅。時代を担ったはずのDVDも風前の灯火状態。そんなことを思いながら読み進める。ご両人の語りからは、「ヒッチコックの映画は、古びることなく今も面白い」ということがひしひしと伝わって、持っているDVDを確認しに棚に向かいたくなってしょうがなくなるのである。

やはり少年時代、青年時代にみた作品の印象が強いということもあるのだろう、「レベッカ」「断崖」「疑惑の影」「白い恐怖」「汚名」など、今からすると少し前の時代のものについての方が、頁数も多く、細かいところにまで言及されている印象である。キャリア終盤の「フレンジー」「ファミリー・プロット」も面白かったと語られているが、思い入れという点では少々劣るのかもしれない。頁数で言えば、前半は15、6ページほども使っているのに対して、後半は8ページくらいになるのだから、差は歴然としている。

ヒッチコックの演出術が如何に凄いかということが語られていて、その部分でぐいぐいと引き込まれていくのは当然なのだが、この対談集が面白く愉しいのは、ヒッチコックについてだけの内容ではないというところ。少年のころから映画を見ている二人なので、縦の知識だけでなく同時代的な横の知識も豊富なのである。当時の人気俳優や作品にも話が飛び、その時代時代の流行や常識も実感を持って語られるので、読み物としての幅が広くなっていると思うのだ。寄り道の楽しさと言えばいいだろうか。研究書といったかしこまったものではなくて、軽く読んで愉しい一冊なのである。こういう本は、ちょっと時間が空いたときにパラパラっとめくれるように、出来れば手元に置いておくのがよろしいね。と思ったら文庫化されていた。値段もだいぶお手ごろになっている。

読み終えて棚からヒッチコック映画を探してみたところ「バルカン超特急」「疑惑の影」「ロープ」「ダイヤルMを廻せ!」「裏窓」「ハリーの災難」「サイコ」「鳥」「フレンジー」のDVDを持っていた。なんか半端だなあ。それに、前半の作品はかなり見落としている。「白い恐怖」や「汚名」もみてなかった。みた気になってたけど。旧い作品はパブリックドメイン扱いで安いDVDも出ているから見てみるのもいいかもな。