眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

キューブ■RED ★★★

監督 ルイス・ピエドロイータ ロドリゴ・ソペーニャ/2007/スペイン/NETFLIX/

謎の招待状を受けた4人の男女。数学上の難問を出すというパーティーへの招待であり、穀物倉庫の奥に改装された一室が用意されていた。4人の他に招待主のフェルマーと合わせて5人。いよいよ問題が出されようとしたとき、急用でフェルマーが退席。そして、携帯電話に問題が送られてくる…。

数学上の難問という話だったが、出題される問題はどこかで見たこと聞いたことのあるクイズみたいなもので、数学に強い者を集めたパーティーが聞いて呆れる。しかし1分以内に正答しないと壁が徐々に迫ってきて最終的には圧し潰されるという大掛かりなギミックが用意されているのが愉しい。その間に、全く無関係だったと思われた4人には、実は繋がりがあったり隠している秘密があったりと、次第に真相が表面化していく過程がスリリング。前半でさりげなく語られたことが、緊迫化していく状況の中で意味を成したり繋がったりという工夫もされていたり、フェルマー(とされた人物)が外に出たあともフォローされ続ける辺りも意味ありげに撮られていて、無駄にサスペンスを呼ぶのも面白い。犯人の正体と犯行の動機が判明すると「なあんだ」となるのはこの手の映画の宿命のようなもの。

バトル・ロワイアル 特別篇 ★★★★

監督 深作欣二/2001/ブルーレイ/

強く立派な大人を作るための一環として制定されたBR法。修学旅行で愉しく和気藹々な中、七原たちのクラスが今年の殺し合いに選ばれる。仲の良かったはずのクラスメートたちは、突然の理不尽な暴力の中で過酷な戦いに身を投じて行く。

無謀な設定と物語を、有無を言わさず引っ張っていく深作欣二の圧倒的な技量に、久しぶりにみても感嘆。若い俳優たちは演技がさして出来るわけでもなく、特に声を荒げてわめく場面など、ただただうるさいだけで何を言っているのかよく判らない状態、もうちょっと落ち着いた場面でも、型にはまったような演技になっているが、作り手もそれは百も承知でのことだろう。それよりも、がむしゃらなエネルギーとひたむきさを重視し、瞬間的な起爆力を命の限界を生きるギリギリの若者たちにダブらせて、短くも儚い青春の一瞬をそこに刻み付ける。アクションシーンが見どころになる映画だが、銃で撃たれた少女たちが、くるくると体をひねり、舞うように絶命していくさまは、さながら死のバレエ、血のダンス。殺陣をつけるというよりも、振り付けと言った方が良いような、華麗なまでの死の舞が素晴らしい。死の際にまで、はじけるような生への渇望が見えるようだった。

ザ・ウォーク ★★★★

監督 ロバート・ゼメキス/2015/アメリカ/NETFLIX/

フィリップ・プティは、WTCビルに魅せられる。あのビルにワイヤーを渡して歩けたら、世にも素晴らしいアートとなるだろう。彼は仲間を集め、あの手この手でビルに忍び込む。果たしてその挑戦は見事に実を結ぶのか。

実在の人物の冒険に基づく映画なので、どうなるのかは判っているとはいえ、中空に浮かぶそのときまで飽きさせないのは、事実の面白さよりも、映画的脚色と寓意性、そして童話的な見せ方によるものが大きい。パリの街並み、恋人となるアニーとの出会い、サーカス団で勝手に学ぶ綱渡り、師匠の教え、ニューヨークに聳えるWTCビル…。ロケーションもあるのに、どの場面も加工されたかのよう。そこには、箱庭のような独自の世界が構築されていく。CGや3Dを駆使した結果の世界観とも言えるが、リアリズムに徹したドラマにすることも可能なはずで、だがそうはしていないのだ。フィリップが口にする「美しい」と思うものや事、いわば個人的で極めて抽象的なものを、如何に具体的に映画的に表現するかというゼメキスの決断であり、志向。彼の信じる美しさはそこにある。美しさ(=アート)に対する奉仕、その行為を支えてくれる者への感謝、形がないが存在しているものへの畏敬の念が描かれる、そのことの美しさ。フランス人の物語を何故アメリカ人が描くのか、今はもう無いWTCへの想いが、そこに重ねられていることも感動的である。ビル潜入のプロセスが犯罪映画のようなのは意外な面白さで、嬉しい驚き。

ヴェノム(吹替) ★★★

監督 ルーベン・フライシャー/2018/アメリカ/劇場で/

ライフ財団の探査船が宇宙からの帰還中に墜落。他天体で捕獲されていた生命体の一つが脱走し、宿主(人間)を次々と変えながらアジアからアメリカへ向かう。そのライフ財団の内情を暴こうとして圧力をかけられレポーター職をクビになったエディは、財団の研究者からのタレコミで内部に潜入。しかしそこで生命体に寄生されてしまう。

ポスターや予告編から想像されるものとは違い、意外と真っ当な(ダーク)ヒーロー映画。エディとヴェノムのコミュニケーションは、体を乗っ取られてパニック状態になったところでそれが笑いとして昇華される娯楽映画なので、シリアスに寄り過ぎない。むしろはっきりと、傍迷惑な人物に気に入られて、引っ張りまわされる普通の人の受難のコメディと言った方が良いような気もする。しかもそのやり取りは、例えば「寄生獣」の新一とミギーのそれを思い出してみたり、吹替だとヴェノムの声が中村獅童ということもあり「デスノート」のリュークも影もちらついたりして、見ているこちらの事情とはいえ、どこか微笑ましい空気すら漂う。おおよそ想像されるパターン通りに展開するので、既視感に満ち過ぎているが、愉しく見られる映画のよさを実感。

黒い雪 ★★★

監督 マルティン・オダラ/2017/アルゼンチン=スペイン/NETFLIX/

妻ラウラを伴い、遺骨の埋葬のためにパタゴニアへ帰国したマルコス。埋葬する場所は父の遺言で、ホアンの隣に、というものだった。ホアンはまだ少年の頃、誤射によって死んでおり、その場所は遠い過去となってマルコスの記憶にはなかった。兄サルバドルは今も雪深い山中に一人で暮らしていたが、マルコスはどうしても兄に会いたくはなかった。何故なら…。

兄弟の確執が、雪の降る山奥でぶすぶすと燻り続けることで立ち込める緊張感。ラウラを含めて三人で食事する場面の冷ややかな空気など、落ち着かない気持ちにさせられる。何故ここまで兄弟の関係が断絶しているのか、それは彼らの言動の端々に滲んでも、決してはっきりと口にされることはない。それほどの禁忌となっているものが何であるか、不穏な過去と、険悪な兄弟の睨み合いとが交互に描写されていく過程がサスペンスを呼ぶ。真相自体は無論ショッキングなものではあるが、こちらに見えていることは、実はそのままではないのだろうという予想がついてしまうので、衝撃度はそれほどでも無くなるのが惜しまれる。むしろそのあとに、二人の妹サブリナの残したノートと、そこに挟まれていたメモから、ラウラとマルコスが今後の人生について下す決断が、嫌な後味を残して印象に残る。まるで観客に「黙っていて」と強要するかのように、ラウラがすっと視線を外しこちらを見つめる、一瞬のラストカットが素晴らしい。

見ざる聞かざる目撃者 ★★★

監督 アーサー・ヒラー/1989/アメリカ/NETFLIX

目が見えないデイブは、耳の聞こえないウォーリーを店で雇うことに。ところが店で殺人事件が発生し、あろうことか二人が容疑者として逮捕されてしまった。このままでは刑務所行きとなる。警察署を逃げ出した二人は、あれやこれやの末に、犯人を捕まえようと決意する。

社会的に正義の側に立とうとする自分の偽善を燻りだすような設定で、身障者を笑い者にしていると言えば確かにそうなので、これで笑っていいのか微妙な気持ちにさせられるところが面白味。笑いのベースは身障者ネタとなるので、どうしても不謹慎になりがちだが、あれこれと笑いを繰り出す姿勢は果敢で挑戦的。しかし、身障者であることを悟られまいとして、ハンディを見せないようにしている二人の姿などは、笑わせながらもその奥に現実の切実さを感じさせ、自分の生活を顧みさせる。そんな二人が打ち解けて、アイスクリームのコーンを頭に乗っけられたり、ゴミ収集船にパトカーで突っ込んだりしながら、かけがえのない存在として友情を育んでいく様子には胸熱くさせるものがある。犯罪者のボスが実は…というラストは、そこまで描かれてきたコメディとは違う異様な空気感を孕んで、妙な緊迫感があった。