眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

トマホーク ガンマンVS食人族 ★★★★

監督 S・クレイグ・ザラー/2015/アメリカ/NETFLIX/

不審者として牢屋にぶち込まれた盗賊を蛮族が拉致。盗賊は蛮族の土地に侵入する愚を犯していた。その場にいた医師と保安官助手もさらわれ、保安官とその助手、医師の夫、流れ者の伊達男の4人が救出に向かう。が、教授と呼ばれる先住民の男も恐れる蛮族は、人を食う汚れた部族であった。

西部劇ながらもホラーのテイストが多分に含まれた、異種格闘技的な面白さに満ちている。前半のほとんどを費やして描かれる追跡の様子は、緊迫した状況にもかかわらず、スピード感とは無縁の淡々とした描写になっており、4人それぞれの個性もきちんと描かれ、独特のユーモアによる可笑しさもあり。職務、妻を助ける、医師を牢屋に連れて行った責任と、それぞれに追跡に加わる理由があるが、決して仲が良い訳ではない彼らの関係が、離反する事もなく奇妙なバランスで釣り合う、微妙な距離感の取り方が面白い。後半は蛮族との闘いになるが、蛮族が喉に笛のようなものを仕込んでいて声を大きく響かせる描写には目を惹かせるものがあり、ホラー映画らしい残酷猟奇的な人体解体も見せ場。ショーン・ヤングマイケル・パレ、デヴィッド・アークエット、シド・ヘイグといった出演者もうれしい。

七月と安生 ★★★★

監督 デレク・ツァン/2016/香港=中国/朝日放送/

Web小説「七月と安生」の作者である七月を紹介してほしいと、映画会社から頼まれる安生。しかし七月とは永らく連絡も取っていない。「七月と安生」には、二人を主人公とした青春のすべてが語られていたが…。

間に割って入る男は、七月と安生がお互いを一番大切に思っていることを明確にさせただけ。二人の結びつきを強めた触媒に過ぎない。本当はお互いを求めているのに、それを認められないからこそ、それは愛憎という形で二人を縛り続ける。子どもは、男と七月の子ではなくて、実質七月と安生の子だ。二人が体を重ねた男であることに意味があるのだ。男のお守りを安生は持ち続けるが、お守りを通して見ているのは、七月だったのではないか。七月の愛している男、という形で七月を思っていたのだと。そして七月はこの世を去り、安生は一人残される。愛する人との子を育て、自分の中の七月を思いながら。彼女の夢を、せめて解放させてやるために、安生は小説を書く。小説の中では、七月は外国へ旅している。自由になりたいと願った彼女の夢。それを叶えさせる、それこそが「七月と安生」だったのだ。悲しくも美しい、愛の物語。

ブラッド・ファーザー ★★★★

監督 ジャン=フランソワ・リシェ/2016/フランス/NETFLIX/

恋人の片棒を担がされて犯罪へまっしぐらのリディア。押し入った家で人を殺せと言われて動揺し、とっさの行動で恋人を撃ってしまう。リディアは絶縁状態だった父に助けを求めるが、組織は殺し屋を放ち追撃。トレーラーハウスのしがないタトゥー彫師である父ジョンは、娘のために決死の行動に出る。

父と娘二人のやりとりは、しばらく会っていなかった割には呼吸が良く、映画としてもユーモアさえ漂わせる場面もあるが、仲違いをして別れた父と娘ではないように思われて、微笑ましさを感じさせる。ジョンが獄中でも口を割らず、わが父のように慕った男と再会し、しかし潔く訣別する展開は、あまりスマートに描かれているとは思えないが、壁を越えるという意味で削れないものだったのだろう。ジョンが最後に見せる意地と愛には、何も娘のために出来なかった、何も残してやれなかった男の後悔が溢れて切ない。メルと共に年を重ねて来たファンに取っては、しみじみと胸に染み入るものがある。ジョンがトレーラーでタトゥーを彫り、カップヌードルを食べ、親友のカービーとするやりとりなど、彼の生活がちゃんと描かれているのも良かった。娘への懺悔と愛情に満ちた、渋めの男の映画。

シャドー・オブ・ナイト  ★★

監督 ティモ・ジャヤント/2018/インドネシア/NETFLIXオリジナル/

麻薬密売ルートを守るための、鉄壁の護衛が6人。人呼んで「6つの大海」。ある漁村で、盗みを働いた数人のために村人全員が殺されるが、ひとり残った少女レイラを思わず助けてしまうイトウは、6人のうちの一人だった。裏切者の烙印を押された彼は、レイラを連れて逃走。昔の仲間を頼るが、組織の魔の手は執拗だった。

過激な格闘アクションは「ザ・レイド」以降の更なる高みを目指したもの。目まぐるしく、痛みを伴うアクションは見応え充分。そこに残酷猟奇趣味が強く反映されてグロテスクな見せ場が多発し、もはやホラー映画の領域に片足を突っ込んだ状態。一方で、イトウを最終的に助けることになる謎の女など、結局素性の判らないまま。6つの大海の他の5人が出てこないのも拍子抜け。話が小さくまとまってしまうのも物足りない。物語を重視しなくても構わないが、単純な筋立てを持って回ったように語り見せるのは、損。かといって雰囲気を重視したものでもなく、犯罪映画の空気も纏いきれていない。また、アクションを収めるためのカメラを引いた画作りはともかく、画面の切り取り方が垢抜けず、間延びして少々野暮ったく感じられるのも惜しい。

好きな映画音楽 008 「サンタクロース」〜

「Christmas rhapsody」

1985年のイリヤ・サルキンド製作の超大作。大ヒットとは行かなかったが、Amazonのレビューなどを見ると、今も愛されている映画だということが判る。音楽はヘンリー・マンシーニ。クリスマスの有名な曲を一つにまとめたこの一曲は、さすがにマンシーニの作品とは言い切れないが、見事なアレンジと大オーケストラ編成で奏でられ、言葉にならぬほどの昂揚感をもたらす。ぜひとも大音量で聴きたい。

ダンケルク ★★★★

監督 アンリ・ヴェルヌイユ/1964/仏=伊/スターチャンネル1/

ドイツ軍の猛攻の前に、フランス軍とイギリス軍はダンケルクからの撤退を強いられる。爆破と破壊は執拗で、思い出したように散発的に、しかし絶え間ない空爆と銃撃が続く。抗戦と言えば聞こえはいいかが、ほとんど殲滅戦のようなそこでは、あきらめが日常と化す。マイヤは所属していた隊を探しながら、イギリスの船に乗って逃げようとしていた。

ほんの数日の間に出会う人々との、わずかな交流が飄々と、淡々と描かれていく。多くの人々が死んでいき、厭世な気分、捨て鉢な思いが次第に膨らんでいく。決して声高に戦争を批判するのではなく、滲みだすようにその虚しさとうんざりした心情が描かれるところに、無常感が漂う。あちらこちらへと歩き回るマイヤは、その場その場での出来事に対して、「何が?」「どうして?」と、人々に驚いたように反応する。まるで少年のようなピュアな一面を抱えた、そのロマンティストな部分が、女のために銃を抜かせ、彼を死へと追いやる。ラストの、幻影のように見えるジャンヌは、それでも彼に、死を受け入れさせる救いではあったのだろうか。が、赤いドレス姿でひと気の去った海岸に現れるさまは、捉え方によっては死神のようでもあった。

クワイエット・プレイス ★★★★

監督 ジョン・クラシンスキー/2018/米/劇場で

音に反応し俊敏に動く外宇宙からの生命体によって、人類はほぼ死滅状態。主人公一家は音を立てずにひっそりと生活することで、なんとか生き延びていた。が、不慮の出来事によって、家への怪物の侵入を許してしまい、決死のサバイバルが始まる。

音のしない(立ててはいけない)世界という設定が、ありそうでなかったものとして新鮮。外でも中でも声を潜めて物音も立てない。洗濯物は手で洗う。魚は蒸して食べる。皿は葉っぱを使う。太陽光で電気を得る。人類が消えた世界には、木々や草の葉擦れや、川のせせらぎだけが音を立てる。波や雨や雷の、自然の音しかしなくなる。世界が崩壊しつつあるのに、そこだけを取り出すとなんと平穏な静寂に満ちた世界になるか。人類という存在の無粋さが、地球にとって歪であることを結果として突きつけるようだ。どうしてこんな状況で妊娠するのか、ということについてあれこれ言われているだろうが、危険であることは百も承知の上でのことに決まっている。夫婦は、幼い我が子を失ってしまったのだ。それにいつまで生き延びられるかも判らない今、新たな生命を望んで何が悪い。夫婦の心情を脇に置くような映画の見方はしたくない。