眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

『女王陛下のダイナマイト』をみる

監督はジョルジュ・ロートネル。1966年のフランス映画。

ルイ・ドゥ・フュネ、という薔薇の花がある。この名前を聞いて、それはもしかして、と思う人も多いだろうけれど、あのルイ・ド・フュネスを偲んでその名がつけられている。植物園で、オレンジ色でふんわりと広がる大ぶりの花びらをぼんやりと眺めていると、フランス映画がみたいなー、と思った。ということで、これを。フュネスは出ていないけれど、往時のフランスのコメディということで。

コメディと書いたけれど、体裁としてはフィルムノワール系の範疇にあるだろう。監督はロートネルだし、主演はリノ・ヴァンチュラにミシェル・コンスタンタンだし。そう思ってみただろう当時の観客はどう思ったのだろうか。

↑このチラシからすれば、とてもコメディには思えないでしょうよ。かなりの不意打ちを食らっていそうな感じもするが、それが印象に残るものだったからこそ、今でもこの映画を好きだ、という声が根強いんでしょう。

冒頭で、怪我している男たちが映し出される。ついで、なんでおまえはこんなことばっかりするんだ、と刑事から言われた男の姿が、ポンとカット変わりで登場するがそれがリノ・ヴァンチュラ。ああ、単純だけど、スターの登場カットというのは、こうでないとな、と思わせられる。

タイトルクレジットはベルナール・ジェラールの軽快な音楽に乗って、ヴァンチュラが経営するボートショップのそば、停泊しているボートや港の様子が映っているんだけど、クレジットのロゴは白、赤(朱色かな)、黄色、と鮮やか。船体の白や座席シートの赤、青いライン、も目に眩しい。映画が始まると、セットに配置されたポップな色使いが実に愉しくて、コンスタンタンがオーナーのレストランのネオンはピンク、ジャン・ルフェーブルが泊っているホテルはグリーンと、凝った照明でかつ雰囲気満点。壁の色や模様、柄、無造作に並ぶポストなどは勿論、敵となるトミー・デュガン率いるモッズ軍団のブレザー、帽子、ネクタイ、赤いバイクなど、色使いに関して如何にポップたらんかと徹底させた感じがあって、これはもうみていて愉しい。

イギリス人に対する揶揄が多分に皮肉まじりなのが可笑しいし、がっちりと笑わせにくるタイプのコメディではないけれども、ふふふ、と微笑をさそう場面が連続する。特に平手の場面(↓)は、ちょっと卑怯なくらいに繰り返されて可笑しい。

ヴァンチュラの短気、コンスタンタンのまともさ(これ以上無い感じの相棒感!)、ルフェーブルの小心者でずるいところ、それぞれの個性がきちんと描かれているのが映画としてはしっかりしているところ。

後半になって、ルフェーブルの妻であるミレーユ・ダルクが登場(驚いたことに映画が始まって1時間経ってから出てくる!)してからは、奇妙な四角関係になってしまうのも可笑しかった。ミレーユがヴァンチュラに惚れてしまって、疎外感を抱く男2人が可愛いのである。行く先々で襲撃を受けて、八方ふさがりになって逆襲、ピンポイントでモッズ軍団をやっつけていくのがていねいな仕事ぶりで痛快。

前半はともかく、後半はかなりのゆるゆる具合だが、のんびりとしたタッチと憎めなさは、みているこちらも、なんだかゆるい気持ちになってしまって心地よいことこの上なし。ラストも実に締りがない。でもそれもまた愉しい。イギリス風のかっこよさをかっこ悪いと言い切りつつも、007テイストなカラーも取り入れつつ映画を成立させる味わいの一つとし、全体をフレンチ風に仕上げる職人技。こういう映画をみているのは、とても愉しく幸福だ。