眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「そして誰もいなくなった」第二夜 感想


島に、執事夫妻以外の8人を連れて行った船長は、テレビ番組の企画だと思っていた。しかし突然キャンセルの連絡が入り、急遽島へ迎えに行ったにもかかわらず人の気配が全くないことに怯え警察へ。かくして10人の人間の死体が発見され、警視庁から捜査一課警部・相国寺竜也がやってくる。混迷を極める奇怪な状況の中、相国寺は事件の真相に近づいていく。

ネタバレを前提とした文章を書いています。



第一夜、および第二夜の前半部までは、ミステリというよりも、ホラー色の強いサスペンス。如何にこの作品のこの設定が魅力的であったかは、後のインスパイア作品の数の膨大さからも判るという物。改めて、それを思う。日本の俳優や日本の風景といった、見慣れたもので成立している安定感の中でも、見事なプロットと展開の面白さは、揺らぐことのない魅力にあふれている。

監督の和泉聖治は、「相棒」同様、長回しによって緊張感を持続させる手法を取っているが、それ以外にも挑戦的なところがあった。犯人によって電源を切られたホテル内で、ランプを使うことになる夜の場面。ランプの明かりは、実際にはあれほど明るくはないようにも思える。が、ゴールデンまたはプライムタイムのドラマにおいて、これほど暗い場面が続くのも珍しい。ランプを明るくする分、周囲の闇は、出来る限り暗く演出しようとした節がある。よって、先に書いたホラー色の強いサスペンスという色が前面に出て、より娯楽性の高い内容になっていた。加えて、犯人の自白の場面。犯人が自ら命を絶つ場面は、想像や推理ではなく、録画された定点カメラの映像で見せる。途中で刑事たちの表情や言動がはさまれるものの、基本的には隠しカメラによる映像で事件の真相が語られる。対象から引いたビデオ画面が、事件の真相を語る。この客観的な視点のあと、逆に物凄く対象に近づいた形で描かれる。そのギャップは、犯行の動機と異常性を強烈に印象付けるために、計算されたものであり、メリハリのつけかたが、実に鮮やか。

そしてこの作品が何にもまして凄いのは、渡瀬恒彦という俳優の最期の姿を、映像として記録したということ。近年の渡瀬恒彦は、「タクシードライバーの推理日誌」「十津川警部シリーズ」「おみやさん」「警視庁捜査一課9係」など、事件を追いかけて真相を解き明かす役柄が多かった。しかし、渡瀬恒彦がその生涯の最期に選んだのは、正義の心を持ちつつも、殺人に異常に興味を持ちついに実行に移すという異常者。この倒錯したような感覚。正義の人を演じてきたキャリア、病を抱えた体という現実と、正と邪を抱えた余命のない異常者という役柄のリンク具合は、おそらく世界中の俳優の中にあってもそうはない、俳優人生の締め方ではないか。おそらく最後の独白は、渡瀬自身の体調がよろしくないように見えることから、撮影もかなり終盤に入っていたのではないかと思われる。それだけに、より鬼気迫る感じが強い。命尽きようとする前に、それでもなおギラギラとした暗い情熱がほとばしる姿には、役だけでなく自身の感情がかなり溶け込んでいたのではないだろうか、そんなことを思わせる。命を削って演じる狂気の果て。そこまで執拗な演技への取り組み方は、もはや演技ではなく、本物の狂気と言ってもいいかもしれない。最期の最期に凄いものを残していった渡瀬恒彦さんに、心から哀悼の意を表します。

後半、警察の捜査が始まると、謎を解くというミステリ趣味が強くなり、オリジナルな展開が加えられている。昆布を使って拳銃を室外に捨て、ねずみに証拠を隠滅させ、自殺を殺人にみせかけた方法には賛否があるとは思うものの、個人的には嫌いではない。古典的すぎる感じはあるけれど、なんとか日本に置き換えるために工夫されたあれこれは、ズレた感じも含めて楽しく見た。特にズレていたのは、元判事の死んでいる場面。確か原作では、法廷で被る鬘が乗っけられていると思ったが、日本では判りよいアイテムが見つからなかったのだろう。数え歌には、お白州を出してきて、死体にはちょんまげに裃をつけさせる、というかなり無理のある状態になっていた。判事からちょんまげには、なかなか想像が至らないと思うのだが…。あと、人形をどうやってケースから取り出しているのか?という謎は、隠しスイッチをひねると開くという、なんのひねりもないものであった。まあそんなものだろうとは思っていたが。

しかしながら、これくらい気合の入った内容ならば、期首特番のドラマとして成立するものなのだな、と思わされた。つまり、他にも同様の企画が望めるということである。アガサ・クリスティ原作のミステリはまだ沢山ある。クリスティー社(とクレジットされていた)としては、そうそう簡単に原作の使用は認めないかもしれないが、このレベルの出来栄えなら、次の許可も出そうな気もする。それなら「アクロイド殺し」をやってほしいですね。それに何も、ミステリとはクリスティのことだけではない。エラリー・クイーンをやろうというプロデューサーがいてもいいのではないか。ディクスン・カーや、コリン・デクスターでもいいですよ、と(つい先日の3月21日に逝去)。夢は膨らむ。膨らみ続ける限り、夢は続く。夢が続けば、愉しみも続く。

放送日/2017.3.26(日)/テレビ朝日 午後9時〜/