眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

ロートレック荘事件 ネタバレ感想


筒井康隆・著/新潮社

幼い頃、別荘での事故によって下半身が不自由となった重樹。かつての別荘は実業家の木内氏が買い取り、氏の趣味であるロートレックの絵が飾られていることもあり(重樹の体とロートレックの体のこととも合わせて)、ロートレック荘と呼ばれるようになっていた。しばらくぶりに訪れた重樹だったが、3人の年頃の女性たちが恋の鞘当的なものを展開することに戦々恐々。そんな中で、銃声が轟く。殺人事件が発生した…。
ロートレック荘事件」といえば、ラストに大技が繰り出されることが有名な作品。それは覚えていたのだが、具体的に何が起こったのかは、もう思い出せない。というか、完璧に忘れてしまったため、ワクワクしながら、25年目にしての再読。そして決定的な瞬間、「あんた誰…?」という衝撃が!なるほど、こういう話しだったっけ。愉しいね。

以下、ネタばれしています。















面白さのポイントは、叙述トリックにあるので、そこの部分だけで語られることが多いと思われる(事件の真相そのものには、それほど凄いトリックがあるわけでもない)。叙述ものの醍醐味は、今まで読んできた世界がひっくり返るところにあるのだが、読み返す、という愉しみがその後にある。作者が仕掛けた巧妙な罠を、なるほどこういう書き方をしていたか、と確認しながら読むという愉しみ。
実は重樹と修というふたりの人物が、交互にドラマを語っているのだが、共に「おれ」という主語を使うことで、まるで重樹ひとりの主観であるかのように物語を進めている。その上で、工藤という人物を配して読者の視線をそらし、修の存在を消し去っている。しかしそれは、言葉を濁し、ごまかし、削りして、細心に組み立てられた世界であり、ときどき「?」と思う奇妙な文章になってしまうほど、危険な綱渡りになっている。そこは、二度目に読むと良く判る。そのギリギリ感もスリリングである。
もうひとつ、最初に読んだときには、重樹の焦りのような感情は、結婚相手との鞘当的なものと読んでしまうのが、二度目には全く違う様相になるのも面白い。同じ文章でありながら、意味が全く違ってくるという仕込み方は、叙述ミステリでは当然かもしれないが、細かな神経を使って描かねばならず、そこにも感動してしまう。
読みながら、「獄門島」の「きちがいじゃが仕方がない」とか、佐々木希吉田沙保里が同じ言葉を言っても意味が違う「あの人落としてみようかな」なんかを思い浮かべたよ。関係ないけど。

よく叙述トリック小説は、「映画化不可能」などと言われることがあるが、実際には「ハサミ男」も「イニシーエション・ラブ」も工夫を凝らして映像化されているので、「ロートレック荘事件」も出来るのではないか、と思う。重樹と修を似たような声にして、修を常に画面外に見切れるように配置すれば出来ないかな?似たような声の俳優ということで言えば、谷原章介玉木宏のような。ふたりとも低くて甘い声でしょう。ときどき判らなくなるときもあるし。皆で考えれば、おっ、というアイディアも出て来そうだけどな。誰かやってくれないかねえ。その際のキャッチコピーは、ラストの一行「どうか私を死刑にしてください。」押しでお願いします。

アイザック・アシモフ黒後家蜘蛛の会」がかつてラジオドラマになっており、いくつかがYoutubeに上がっておりますが、特にこれ会心の笑い」には、「ロートレック荘事件」同様の「あっ」というネタが仕込んであって愉しいですよ。謎そのもののオチは、まるで落語の下げのよう。聞いてみてください。19分ほどありますが、あまりに豪華な声優陣にびびっているうちに終了です。こちらでどうぞ
他に、「出版禁止」などもどうでしょうかね。どんでん返しとは別の趣向で、あれこれと愉しませてくれます。感想も書いてますので、読んだあとにはまた立ち寄っていただければ。
さらに別の趣向でゲームブックなども。人狼村からの脱出」に挑戦してみた感想も書いております。何よりもひらめきが重要になる、面白趣向のあれこれに引っ張りまわされる快感。疲労困憊しつつもクリアしたときの達成感たるや。「ロートレック荘事件」の「あっ」とは違うけれども、「こういうことか!」という愉しさ満点。感想はこちら。ネタバレはしておりません

↓その他の「うわあああ」と思ったミステリもいくつか選んでみました。チョイスがちょっと古めですが、内容は古びていないと思います。