眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「キングコング対ゴジラ」4Kデジタルリマスター版(2K上映) 感想

川北紘一監督を偲んでのオールナイト上映がその前日にあり、翌朝に1回、「キングコング対ゴジラ」を上映するというので行ってきた。当日券1000円で、オールナイトでも配られたと思われるゴジラのステッカー(手に川北監督が乗っているイラスト)と「キンゴジ」フィルムから抜き出したしおり(4コマ分)をもらう。4種類あったようなのだが、もらった分は、北極圏の某国軍事危機を襲撃する際のカットのようにみえる。

4Kリマスターの2K上映だったのだが、すみません、正直、期待していたほどではなかったです。本来の4K上映だともっときれいなのかなあ。現在出ているDVDやブルーレイと比較するときれいだが、粒子感も結構残っているし(フィルム上映でもないのに)、輪郭がぼんやりした感じの場面(撮影の段階でそうなっている場面も多いのだが)もあり、ちょっと物足りなかった。しかし以前、「ゴジラ」の60周年記念版のときに、フィルムの質感を残したいので粒子なども調整しているという話を読んだことがあるので、今回のリマスター版もそういう配慮がなされているのかもしれない。とはいっても、オオダコのぬめり感などはよく出ていて気持ち悪さが強調されていたり、コングの地肌や手の荒れ具合なども見えすぎるくらいで、リマスターの力を実感させてくれる。特に特撮や合成の絡まない、俳優さんのアップなどではその力の発揮具合は素晴らしく、浜美枝若林映子は、とても華やかに可憐に映し出されて、見惚れてしまいますね。佐原健二も、男前度が上がっているなと思いましたよ。

そしてこのリマスター版の目玉となるのが、カットされていた部分を復元したオリジナル版になっていること。今まで違和感たっぷりにみていたカット部分が、全く普通につながっていることが素晴らしい。ああやっと、本来の形で見られたという感慨があった。清水俊文さんも、カットされていたことを知らない人は、全く気付かないと思いますと言われていたが、本当、その通りだった。それともうひとつ、音が圧倒的にパワーアップしていて、それが実は一番の見どころではないかと思ったほど。4chステレオを(5.1ch内に)再現したということで、音の厚みがモノラルとは大違い。モノラルはモノラルでいいけれども、立体感のある音響の迫力は、今までにない「キンゴジ」をみた、という興奮を与えてくれた。ゴジラの鳴き声のなんという抜け方か、と(耳が痛いほど)。そして囚われの浜美枝の、ぐえぐえ言ってる声とか。それと個人的に気になったのは、意外と抑えた色調だったこと。当時の総天然色は、もっと明るい感じがしていたのだが、こんなものだったのかな。

上映前に「大森一樹監督×清水俊文『キングコング対ゴジラ』リマスター版を語る」というトーク企画があり、特に興味深かったのは、清水俊文(東京現像所)さんによる、フィルムがどれだけ凄いか、という話。当時は現像技術の限界で表現しきれなかったものが、今の技術で映し出せるようになっていると。実はフィルムには6Kくらいのポテンシャルが秘められており、映ってないと思っていたものが実は映っていた、くらいのことが起こるらしい。大森監督も、背景の書き割り(ファロ島の書割は、元々判り易いのだが)やホリゾントがばれるくらいと言っておられた。例えとしてだが、「スモークを焚いて撮影しても、映っていないと思っていたスモークの向こう側が透けて見えてしまう」との発言もあり、面白いなと思いましたね。確実に100年は残り、データ量も圧倒的に多いフィルムを、簡便さや合理性やお金の問題から切り捨ててしまったのは残念としか言いようがない。といっても、フィルム上映しても一般の劇場でその良さが100%再現出来るわけではないし、あくまでも撮影、保存ということに関してだが。上映に関しては、今更かつてのフィルム上映に戻るのも嫌な話で。昔は、上下に画面がずれていたり、画面がぼけていたり、フィルムチェンジの際に頭のコマがちゃんと映らなかったりと、色々とストレスのたまることが多かったから。何度、「画面ぼけてるよ」と受付に走ったものだろう。でも他の観客は何も言わないんだよな。こちらが神経質すぎたのかもしれないけれど…。

映画自体は何遍も見ているが、何遍見ても面白いものは面白い。高島忠夫がドラムを叩くとか、佐原健二の勤める会社が繊維メーカーだとか、なんとなく描かれたことが後半でさらりと展開の中に生きるあたりの脚本が愉しい。それと今回は、リマスターによる画質のアップに加えて、劇場の大きなスクリーンで見られたことがとてもよかった。昭和37年当時の空気は、もちろんテレビの画面で見ても感じられるとは思うが、やはり大スクリーンでないと醸し出せないものもあるなと実感。特にこの作品は、大森監督も発言されていたように、東宝のサラリーマン映画と同じようなフォーマットに則っている面も大きく、「明るく楽しい東宝映画」そのもののような作品だったことを改めて感じさせてくれた。頭ではわかっていても、大スクリーンで上映されたときに、実感を伴うのである。本当に多幸感にあふれた鑑賞となり、熱海城が見えてくると「ああもう終わりか」と寂しくなってしまったほど。こういう機会を設けてくださり、ドリームプラネット、そして大阪芸術大学のみなさん、ありがとうございました。

しかし残念だったのは、早朝(8:00から受け付け、8:30開場、9:00上映)だったこともあるのだろうが、お客さんが20〜30人程度しかいなかったこと。300人収容なのに!告知がうまく行き届いていないこともあるのだろうが…。マニアックなファンは前夜のオールナイトに行ってるということもあるだろうけれども。特撮ファンだけを対象にして、一般的な告知が全然だったのではないかな。告知が行き届いていれば、昭和37年、日本経済がまだまだこれから伸びるという時代の頃の映画ですよ、往時を知る人はもっと来てくれたかもしれないのに…。主催が大阪芸術大学なので、次世代の人に来てもらいたかったようなのだが、夜に一回上映しようかという話だったが、それだと高校生が見に来ないからという理由で朝になったらしい。が、大森一樹監督が「高校生は朝に映画を見に来ないことがわかりまして」と、実際の場内の閑散とした様子をみて、そう言っておられた。大阪は条例で、16歳未満で保護者なしでは午後7時以降終了の映画は入場出来ず、確かに高校生は見られないのだが、そういう話ではあるまい。きんえい側も告知のポスターを貼らせてあげればよかったのに。貼る場所がないなら、ホワイトボードに貼るとかしてあげればよかったじゃないかな。と、それが心残り…。東京はともかく他の地域では、昔の怪獣映画を映画館で見る機会はあまりないので、実に勿体なかったのでは、と思ってしまうのだった。

因みにこの4Kデジタルリマスター版のソフト化はまだ予定されていないそうです。そういえば「ゴジラ」の60周年記念版も未だに発売されていないな。出さない理由は何なのだろうな。