眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

神の左手悪魔の右手〜影亡者

楳図かずお・著/小学館

物語の方向を、読みながら大体想像するわけだが、時にそれをはるかに凌駕する凄まじいものが飛び出してくることがある。楳図作品は、そういった意味ではかなり高レベルの、想像外への飛翔が数多く見受けられ、読むたびに悶絶するのである。

神の左手悪魔の右手」はどれも凄いのだが、この「影亡者」は、特に凄い。物語の行く先が全く見えないのがまず凄い。泉の友人、みよ子が影亡者に取憑かれた…という、いわばそれだけの話しを、ここまで広げることが出来る、話しを紡ぐ技術に驚倒する次第。

全く影亡者には太刀打ち出来ず、策は次々に失敗し、その間にも人間はどんどん死んでいく。死にざまの凄まじさも特筆ものの、こんな死に方ある?というようなものだし、みよ子が取り始める行動は「洗礼」を思い出させるような暴力的なものになっていくし、思いもよらぬ展開が待ち受けること必至。これは、一種のバカバカしさに通じる世界だと思うのだが、バカなことは、大真面目に真正面から描くと、本当に恐ろしいことになるのだ、と教えてくれる。バカなこと、というのは、狂気と紙一重、あるいは狂気そのものなのだ。

クライマックスでの、みよ子と兵藤タケルが対面する場面、その背後で繰り広げられる、影亡者と、タケルの背後霊である子供たちの戦いの凄惨さは、想像を絶するもので、これは今の商業誌では描けないのではないかとすら思う。まさに血のスペクタクル。他の国の人たちは、こんな凄い作品があることを知らないのだな。いや知らない方がいいのかもしれないが…。楳図かずおの本格的な紹介が海外で進めば、歴史が変わると信じて疑わない。それほどの日本の宝であることを、改めて胸に刻みたいところ。

錆びたハサミ」「消えた消しゴム」「女王蜘蛛の舌」「黒い絵本」の感想も書いています。