眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

「今夜、ロマンス劇場で」 感想

結末の一部に触れています。





監督は武内英樹

ローマの休日」「カイロの紫のバラ」「プリンセス・ブライド・ストーリー」「マディソン郡の橋」「ある日どこかで」「タイタニック」など、色んな映画や物語の記憶がよみがえる。「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」なんかもちらりと頭をよぎった。

栃木県足利市を中心としたロケーションがよい。撮影所のスケール感、柄本明がやっている映画館、二人で虹をみる道、光る蛍が美しい川べりなど、映像に厚みを与えているのが何よりも素晴らしい。

映画自体も丁寧に紡がれているが、特に終盤からの展開には涙を禁じ得ない。ハンカチをつかんで歩く浜辺の場面など、いい年して…いや、いい年をしているからこそ、うるうると来てしまうものだった。

坂口健太郎の老後を、加藤剛が演じている。ずいぶんと年を重ねられた風でなんとも感無量。膝が弱って腰も曲がり、杖をついて歩いているが、それでも凛とした姿…。その表情や、体の不自由な感じ、死の床での静かな芝居などに泣かされてしまった。死んでいく者の覚悟を美しく気高く感じさせるのは、加藤剛の存在ゆえなのだと思う。

京映という映画会社は、色々と不思議な会社でもあって、北村一輝のスターっぷりから東映と思っていたのだが、劇中に流れる映画の中には宇津井健の顔が見えるのだが、暴れている姿は日活の石原裕次郎(マイトガイも日活だ)のようだったり(などと書いていて、本当に宇津井健の映画だったらどうしよう)、映画のポスターは新東宝っぽいものだったり、最終的には倒産してしまうので、ああこれは大映だったのか、と思ったり。特定の映画会社ではなく、往時の日本映画界というイメージなのだろう。

実体は恋愛映画なので仕方がないとは言っても、笑わせようとしているのだろう綾瀬はるかの(乱暴な)行動は、あまりに古めかしい見せ方で微笑ましくはあってもまるで笑えなかったのは残念。ドラマ全体としても少々物足りなさが残ったが、とはいえ、忘れられた映画たち…という、そもそもの映画のコンセプト自体に非常に共感したこともあり、あまり悪くは言いたくはない作品である。

あと、隣に中学生か高校生くらいの女子が座っていたのだが、途中でぼろぼろ泣いていてびっくり。こっちは全く感情が素通りしているような、主役二人のやりとりの場面で。終わって出るときも、家族連れの母親が「蛍の場面でもう泣いてた」と言っているのを聞いて、またびっくりした。何も感じていなかった、その場面。当たり前なのだが、もう若い世代とは、たとえ同じものを見ても感じ方が違うんだなということに衝撃。まあ、こっちはこっちの愉しみ方をするのみ。