眠りながら歩きたい ver.3

映画、ドラマ、小説、漫画などの感想や、心に移りゆくよしなしごとについて書きます。

HOOT ホー 感想


カール・ハイアセン 著/千葉茂樹

フロリダに転校してきたロイは、通学のバスの中から、裸足で全力疾走する少年を見かける。激しく興味をかきたてられたロイは、少年の素性を探ろうと決意。だが、彼の前には、いじめっこというには性質が悪過ぎるダナ、ダナも黙るくらいに勇ましいベアトリスが現れて、探索はうまく行かない。一方、街にはマザー・ポーラというパンケーキショップが開店することになっているが、建設予定地に連日いたずらをする者が現れる。間の抜けた現場監督と、おっとりぼんやりした巡査は、次第にエスカレートしていくいたずらに翻弄されて、失職寸前にまでおいやられる。しかし一体誰が、何のためにこんなことをしているのか?勿論、並走する二つの話しは、やがて一本に結びついていく。

ハイアセンの年少読者向けの一冊。奥付によると初版は、2003年4月となっている。手元にある版は、2005年11月第14刷発行!しかも、今も出版されている。となると、なかなかのロングセラー。そりゃあ、古本屋の店頭本コーナーでよくみかけるはずである。それだけ売れている本なのだ。そして売れている理由も判る。

ハックルベリー・フィンの現代版のような少年に惹かれ、やがて街を巻き込むような騒動の渦中に自ら進んで行く、ロイ・エバーハートのひと夏の冒険物語。友情と親子の愛情についての美しい物語、裸足の少年の謎めいた行動、間抜けな人々の起こす騒動の可笑しさ、フロリダの自然の豊かさ、やがて表面化する環境問題、そしてそれと闘う勇気…。これを読んで血沸き肉踊らせない少年少女がいるだろうか?そして、大人が子どもに読んでほしいものが、ここにはたっぷりと描かれている。

物語は軽快に進む。登場人物は多いものの、割合ドライに描かれている部分もあるので、くどくない。また滑稽さというのは、客観性があってこそ際立つということもある。突き放したようなところに、にやにやするような笑いがうまれてくる。勝手な人たちの勝手な思いと行動は、笑いにくるまれてはいるけれど、グロテスクな欲望や野心にまみれたものである。滑稽でありながら、現実の情けなさもここにはある。ヤングアダルト小説に描かれる大人の滑稽さ。しかしながら、その一部は誇張したものでもなんでもなく、世界のどこにでもある現実を切り取ったものであることの重み。だからこそ、愚かな大人たちの思惑を超えて、少年たちの純粋な気持ちと行動がクライマックスの行動に繋がっていくところに、痛快さと美しささえ感じるのだろう。ここにはジュブナイル小説の正しい部分が光っている。と同時に、それは現実の暗さ、その裏返しでもある。当然、苦味もある。ファンタジーと現実が曖昧に染まるようなラストシーンが素晴らしさのは、それら清濁が合わさったものであるからだ。理想(に生きる裸足の少年)と現実(からは極端な飛翔は出来ないロイ)が溶け合って生まれるであろう何か。それはもう大人たちには掴めないもの。未来ある子どもたちにしか手に出来ないもの。希望と呼ばれるそれは、それゆえに美しいのだ。大人の読者には、複雑な味わいを残すものだろうと思う。

HOOT

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これを、小学生や中学生が読むというのは、なかなか痛快である。子どもたちがこれを読んで笑っているということを、大人たちは頭においておかなければならないだろう。